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【期待値マスター講座06】 確率変数は「どの組も独立」なら「(全て揃って)独立」だろうか?
この記事では、3つ以上の確率変数を扱うときに混同しやすい「2つずつ独立(pairwise)」と「全部そろっての独立(mutually)」の違いを、コインの古典的な反例で正面から押さえます。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
2つの世界と3つ以上の世界は別
前回の記事で、2つの事象(または2つの確率変数)の独立を定義しました。事象なら $${P(A\cap B)=P(A)P(B)}$$、確率変数なら $${P(X=x,Y=y)=P(X=x)P(Y=y)}$$ という積の形でした。
3つ以上に拡張するとき、 「2つずつ全部のペアで独立」 という条件を確かめれば足りそうに見えます。ところが、これは足りません。次のような状況が起こりえます。
- $${A}$$ と $${B}$$ は独立
- $${B}$$ と $${C}$$ は独立
- $${A}$$ と $${C}$$ は独立
- しかし $${A,B,C}$$ の3つを同時に見ると独立でない
この「2つずつなら独立だが、3つそろうと独立でない」状況は、確率論の伝統的な落とし穴です。具体例で確認します。
例題:コイン2回投げの3事象
公正なコインを独立に2回投げる。次の3事象を考える。
・$${A}$$ :1回目が表
・$${B}$$ :2回目が表
・$${C}$$ :1回目と2回目が同じ面
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$${A,B}$$、$${B,C}$$、$${A,C}$$ がそれぞれ独立であることを確認し、 $${A\cap B\cap C}$$ の確率と $${P(A)P(B)P(C)}$$ を比較せよ。
標本空間は $${\Omega = \{(表,表),(表,裏),(裏,表),(裏,裏)\}}$$ で各要素は確率 $${\frac{1}{4}}$$。
各事象は
- $${A=\{(表,表),(表,裏)\}}$$、$${P(A)=\frac{1}{2}}$$
- $${B=\{(表,表),(裏,表)\}}$$、$${P(B)=\frac{1}{2}}$$
- $${C=\{(表,表),(裏,裏)\}}$$、$${P(C)=\frac{1}{2}}$$
ペアの共通部分を見ます。
- $${A\cap B = \{(表,表)\}}$$、$${P(A\cap B)=\frac{1}{4}=\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{2}=P(A)P(B)}$$。独立。
- $${B\cap C = \{(表,表)\}}$$、$${P(B\cap C)=\frac{1}{4}=P(B)P(C)}$$。独立。
- $${A\cap C = \{(表,表)\}}$$、$${P(A\cap C)=\frac{1}{4}=P(A)P(C)}$$。独立。
3つすべてのペアで独立が確認できました。ところが3つを同時に見ると
$$
A\cap B\cap C = \{(表,表)\},\quad P(A\cap B\cap C) = \frac{1}{4}
$$
一方
$$
P(A)P(B)P(C) = \frac{1}{2}\cdot\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{2} = \frac{1}{8}
$$
なので
$$
P(A\cap B\cap C) = \frac{1}{4} \ne \frac{1}{8} = P(A)P(B)P(C).
$$
したがって、 $${A,B,C}$$ は 3つ同時には独立でない 。
直観的には、 $${A}$$ と $${B}$$ が分かれば $${C}$$ が自動的に決まる(1回目と2回目の表裏が分かれば「同じ面か」も決まる)からです。それでも、ペアだけ見ていると独立に見えてしまうところが厄介です。
定義:mutually independent
3個以上の事象(または確率変数)の独立は、ペアの独立とは別に定義します。
事象 $${A_1, A_2, \ldots, A_n}$$ が(全部そろって、 mutually ) 独立 であるとは、任意の $${1\le i_1<i_2<\cdots<i_k\le n}$$ について
$$
P(A_{i_1}\cap A_{i_2}\cap\cdots\cap A_{i_k}) = P(A_{i_1})P(A_{i_2})\cdots P(A_{i_k})
$$
が成り立つことです。要するに、 どの部分集合をとっても積の関係式が成立する ことを要求します。 $${n=3}$$ なら4つの条件(3つのペア + 1つの3個全体)を確認します。
確率変数の場合の定義も同様で、
$$
P(X_1=x_1,\ldots,X_n=x_n) = \prod_{i=1}^n P(X_i=x_i)
$$
がすべての $${x_1,\ldots,x_n}$$ で成立することを要求します。
本シリーズでは、特に断らない限り「独立」はこの mutually の意味で使います。
なぜこの区別が大切か
入試問題で「独立な3つの確率変数 $${X_1,X_2,X_3}$$」と書かれているとき、これは mutually の意味です。だから、3つ全体の分布が積の形で書ける、3つの和の分散が個々の分散の和になる、といった性質が使えます。
ところが、自分で確率変数を構成した場合(たとえば指示関数を組み合わせて作った場合)、「ペアでは独立だけど、3つでは独立でない」ということは普通に起こります。 使いたい性質が要求するのが pairwise なのか mutually なのか を見極められると、誤用が減ります。
参考までに、本シリーズの中核である 期待値の線形性 は、 独立性をまったく要求しません (pairwise すら不要)。一方、独立な確率変数の積の期待値 $${E(XY)=E(X)E(Y)}$$ や、分散の加法性 $${V(X+Y)=V(X)+V(Y)}$$ は独立(または無相関)が必要です。詳しくは第II部と第VII部で扱います。
補足:独立試行の独立は mutually
問題文で「独立な試行を $${n}$$ 回繰り返す」と書かれている場合、各回の結果は mutually 独立として扱ってよいです。これは試行設計の前提なので、こちら側で疑う必要はありません。
注意したいのは、独立な試行から導いた 派生変数 (和、最大、指示関数の組合せなど)が独立とは限らないことです。前回の例題3で見た $${X+Y}$$ と $${X-Y}$$ のように。
練習問題
公正なさいころを1回振る試行で、次の3事象を考える。
・$${A}$$ :偶数の目
・$${B}$$ :3以下の目
・$${C}$$ :3の倍数の目
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$${A,B}$$ は独立か。 $${A,C}$$ は独立か。
それぞれの事象を書き出します。
- $${A=\{2,4,6\}}$$、$${P(A)=\frac{1}{2}}$$
- $${B=\{1,2,3\}}$$、$${P(B)=\frac{1}{2}}$$
- $${C=\{3,6\}}$$、$${P(C)=\frac{1}{3}}$$
$${A\cap B = \{2\}}$$、$${P(A\cap B)=\frac{1}{6}=\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{2}=P(A)P(B)}$$。 $${A}$$ と $${B}$$ は独立。
$${A\cap C = \{6\}}$$、$${P(A\cap C)=\frac{1}{6}=\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{3}=P(A)P(C)}$$。 $${A}$$ と $${C}$$ も独立。
ちなみに $${B}$$ と $${C}$$ は $${P(B\cap C)=P(\{3\})=\frac{1}{6}}$$ で、 $${P(B)P(C)=\frac{1}{6}}$$ なので、こちらも独立です。ペアでは全部独立ですが、3つ同時には $${P(A\cap B\cap C)=0}$$ で $${P(A)P(B)P(C)=\frac{1}{12}}$$ なので、 mutually には独立ではない ことになります。
次に読む記事
次回は、独立とよく混同される「無相関」という概念を扱います。「独立 $${\Rightarrow}$$ 無相関」は正しいですが、逆は一般に成り立ちません。これは入試の答案で「独立だから〜」と書くべきところで間違いをしないために、ぜひ押さえておきたい区別です。
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