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【期待値マスター講座01】 線形性を軸に、期待値の問題をマスターする 〜京大2026攻略までの旅〜

    ゴウカライズ編集部
    27 May, 2026

    今回のシリーズは、期待値を一歩ずつマスターするための連続講座です。

    この記事では、大学受験で出題される期待値の問題に向けて、 期待値の線形性指示関数 という2つの道具を一から身につけるシリーズの導入として、京都大学2026年の問題を例に「正攻法」と「線形性を使った1分解法」を比べます。

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    京大2026の問題から入る理由

    2026年度の京都大学(前期、文系第5問・理系第6問の共通問題)に、こんな問題が出ました。

    $${n}$$ を $${3}$$ 以上の整数とする。$${1}$$ から $${n}$$ までの番号が書かれた $${n}$$ 枚の札が袋に入っている(同じ番号はない)。袋から $${3}$$ 枚の札を同時に取り出し、一番大きな番号を $${X}$$ とする。$${X}$$ の期待値 $${E(X)}$$ を求めよ。

    一見、確率分布 $${P(X=m)}$$ を書き出して $${\sum m\cdot P(X=m)}$$ を計算する正攻法が浮かびます。実際それでも解けますが、 指示関数+線形性 という見方を入れると、計算量がかなり減ります。

    まずは指示関数を使う解き方を見てみます。

    線形性を使えば、答えはひと筋

    $${k=1,2,\ldots,n}$$ について「 $${X\ge k}$$ が起こる」という事象の指示関数を $${I_k}$$ とします。 $${I_k}$$ は事象が起きれば1、起きなければ0という確率変数です。

    $${X}$$ は $${3}$$ 以上 $${n}$$ 以下の整数値しかとらないので、 $${X=m}$$ となった結果に対しては $${I_1=I_2=\dots=I_m=1}$$、それ以外は $${0}$$ になります。つまり

    $$
    X = I_1 + I_2 + \dots + I_n
    $$

    と書けます。「最大番号」という1つの量を、「$${X\ge k}$$ が起きたか?」という $${n}$$ 個の $${0/1}$$ 変数の和に分解したわけです。

    ここで、$${X\ge k}$$ となるのは「取り出した3枚の中に番号 $${k}$$ 以上の札が少なくとも1枚」のとき。余事象は「3枚すべて $${k-1}$$ 以下」なので、その場合の数は $${\binom{k-1}{3}}$$ 通り( $${k\le 3}$$ では $${0}$$ )です。よって

    $$
    E(I_k) = P(X\ge k) = 1 - \frac{\binom{k-1}{3}}{\binom{n}{3}}
    $$

    となります。あとは期待値の線形性で和を取るだけです。

    $$
    \begin{aligned}
    E(X) &= \sum_{k=1}^{n} E(I_k) \\
    &= n - \frac{1}{\binom{n}{3}}\sum_{j=0}^{n-1}\binom{j}{3}.
    \end{aligned}
    $$

    ここでホッケースティック恒等式 $${\sum_{j=0}^{n-1}\binom{j}{3}=\binom{n}{4}}$$ を使えば

    $$
    E(X) = n - \frac{\binom{n}{4}}{\binom{n}{3}} = n - \frac{n-3}{4} = \frac{3(n+1)}{4}.
    $$

    3行で答えが出ました。

    正攻法でも解けるが、計算量が違う

    念のため、正攻法で書くとこうなります。

    $${X=m}$$ となるのは「最大が $${m}$$ 」で、残り2枚が $${\{1,\ldots,m-1\}}$$ から選ばれた場合なので

    $$
    P(X=m) = \frac{\binom{m-1}{2}}{\binom{n}{3}}\quad (m=3,4,\ldots,n).
    $$

    これを使うと

    $$
    E(X) = \frac{1}{\binom{n}{3}}\sum_{m=3}^{n} m\binom{m-1}{2}.
    $$

    $${m\binom{m-1}{2}=3\binom{m}{3}}$$ という変形を経由してホッケースティック恒等式に持ち込めばたしかに $${\frac{3(n+1)}{4}}$$ にたどり着きます。

    たどり着きますが、 指示関数で分解する道のほうがはるかに汎用性が高い。試験本番で思考時間が限られている場面では、この差が効きます。

    ポイントは2つあります。

    • 指示関数 $${I_k}$$ たちは 独立ではない にもかかわらず、線形性は使える。
    • 「最大値」のような扱いにくい量を、「ある条件が成り立つか」という小さな部品に分解できる。

    この $${X=\sum_k\mathbf{1}_{\{X\ge k\}}}$$ という見方は tail-sum formula と呼ばれ、最大値・最小値の期待値で何度も出てきます。シリーズの第IV部・第VI部で改めて掘ります。

    このシリーズで身につけること

    期待値の問題は、定義 $${\sum_k k\cdot P(X=k)}$$ を素直に計算する場面ももちろんあります。ただ、入試レベルになると、定義通りでは現実的でない場面が多くなります。線形性と指示関数を組み合わせると、一見巨大に見える計算が一行で終わることも珍しくありません。

    そこで本シリーズでは、 全56回 で次の順に進みます。

    第I部 準備編(記事1〜9)

    確率の枠組み、確率変数、独立性、無相関、期待値の定義と平均値との違い。土台の言葉を整理します。

    第II部 線形性編(記事10〜14)

    期待値の線形性のあらまし、正確な証明、線形性が効く場面、効かない場面、独立性が不要な理由。

    第III部 基本問題の演習編(記事15〜19)

    くじ引きの公平性、復元抽出と非復元抽出、袋の中のボール問題。線形性を典型問題に乗せて練習します。

    第IV部 指示関数の基本編(記事20〜24)

    指示関数の定義、 $${E(I_A)=P(A)}$$ 、個数を $${0/1}$$ の和に分解する見方、tail-sum formula。

    第V部 指示関数の応用編(記事25〜31)

    二項分布、クーポンコレクター、じゃんけんの勝者数、モンモールの一致数など、典型例を一つずつ。

    第VI部 最大値・最小値編(記事32〜35)

    $${E(\max)\ne\max(E)}$$ の罠から、tail-sumとの組合せ、順序統計量まで。

    第VII部 成り立たない性質編(記事36〜39)

    線形性とは対照的に、独立性が必要になる「積の期待値」「分散の加法性」、そしてJensen不等式。

    第VIII部 期待値と勝率は違う編(記事40〜41)

    ハイリスク・ハイリターンの感覚と、京大1997年「 $${E_A>E_B}$$ なのに $${P_A<P_B}$$ になる帯」の問題。

    第IX部 漸化式編(記事42〜47)

    ランダムウォーク、コイン投げの初成功、ゲーム終了までの回数。漸化式アプローチをまとめます。

    第X部 入試問題総合演習編(記事48〜53)

    鹿児島大2024、東北大2025、一橋大2012、慶應医2025、京大2026、昭和医2019の6題。

    第XI部 仕上げ編(記事54〜56)

    自作の演習問題3題で道具の運用を確認し、シリーズを締めます。

    読み方のおすすめ

    数学の参考書のように頭から順に読むのが一番ですが、すでに線形性は知っているという方は第IV部の指示関数から、独立性まわりだけ整理したい方は第I部の後半(記事5〜7)と第VII部だけ拾い読みする使い方も想定しています。

    各記事には例題か練習問題を最低1問入れています。読みっぱなしにせず、 自分の手で式変形を追ってから 次の記事に進むと身につきが違ってきます。

    次に読む記事

    次回は、期待値の話に入る前の土台として「標本空間と事象」を整理します。「確率を考えるとき、何の試行を考えているのか」を最初に決めることの意味と、簡単なさいころの例で確認していきます。

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