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【期待値マスター講座08】期待値の定義を完璧に!(例題付き)
この記事では、期待値の定義 ${E(X)=\sum_k x_k P(X=x_k)}$ を、1から3カードの復元抽出を題材に、手を動かして使ってみます。
線形性に頼らない「定義通り」の計算で、まずは基礎体力を作ります。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
期待値の定義
有限個の値 $${x_1, x_2, \ldots, x_n}$$ をとる確率変数 $${X}$$ について、
$$
p_i = P(X=x_i)\quad (i=1,2,\ldots,n)
$$
とおきます。このとき
$$
E(X) = \sum_{i=1}^{n} x_i \cdot p_i
$$
を $${X}$$ の 期待値 と呼びます。 $${E}$$ は英語の expectation(期待)の頭文字です。
定義の中身は単純で、 「値ごとに確率を掛けて全部足す」 だけです。確率分布が手元にあれば、機械的に計算できます。
たとえば、さいころを1回振って出る目を $${X}$$ とすると、 $${P(X=k)=\frac{1}{6}}$$( $${k=1,\ldots,6}$$ )なので
$$
E(X) = 1\cdot \frac{1}{6} + 2\cdot \frac{1}{6} + \cdots + 6\cdot \frac{1}{6} = \frac{1+2+\cdots+6}{6} = \frac{21}{6} = \frac{7}{2}.
$$
この $${\frac{7}{2}}$$ は受験の答案で頻出する値です。
例題:復元抽出で2枚の積
1から3までの番号が書かれたカードが各1枚、合計3枚入った袋がある。1枚を無作為に取り出して番号を記録し、袋に戻してさらに1枚を無作為に取り出す。取り出した2枚の番号の積を $${X}$$ とするとき、 $${E(X)}$$ を求めよ。
復元抽出なので、組 $${(i,j)}$$( $${i,j\in\{1,2,3\}}$$ )の9通りはすべて確率 $${\frac{1}{9}}$$ で起こります。
$${X=ij}$$ の値を9通りの組について書き出します。
- $${(1,1)\to X=1}$$
- $${(1,2)\to 2}$$、$${(2,1)\to 2}$$
- $${(1,3)\to 3}$$、$${(3,1)\to 3}$$
- $${(2,2)\to 4}$$
- $${(2,3)\to 6}$$、$${(3,2)\to 6}$$
- $${(3,3)\to 9}$$
確率分布にまとめると
- $${P(X=1)=\frac{1}{9}}$$
- $${P(X=2)=\frac{2}{9}}$$
- $${P(X=3)=\frac{2}{9}}$$
- $${P(X=4)=\frac{1}{9}}$$
- $${P(X=6)=\frac{2}{9}}$$
- $${P(X=9)=\frac{1}{9}}$$
定義通りに期待値を計算します。
$$
\begin{aligned}
E(X)
&= 1\cdot \frac{1}{9} + 2\cdot \frac{2}{9} + 3\cdot \frac{2}{9} + 4\cdot \frac{1}{9} + 6\cdot \frac{2}{9} + 9\cdot \frac{1}{9} \\
&= \frac{1+4+6+4+12+9}{9} \\
&= \frac{36}{9} = 4.
\end{aligned}
$$
したがって $${E(X) = 4}$$。
線形性で確認する(前振り)
実は、復元抽出で2回の取り出しは互いに独立なので、 $${X = X_1 \cdot X_2}$$ について
$$
E(X) = E(X_1)\cdot E(X_2) = 2\cdot 2 = 4
$$
としてもよかったわけです。 $${E(X_1) = \frac{1+2+3}{3} = 2}$$ と $${E(X_2) = 2}$$ の積。
ここで注意したいのは、 積の期待値が期待値の積になるのは「独立であれば必ず成立する」が、必要条件は独立よりも弱い「無相関(共分散 $${0}$$ )」である ということです。詳しくは第VII部で扱いますが、いまの問題は復元抽出(独立)なので安全に使えました。非復元抽出のように従属関係がある場合は、独立性に頼って書くことはできません。
それでも、まずは「定義通りに全部書き出す」計算ができることを優先してください。 計算の効率化は、定義通りができる人にだけ意味があります 。
期待値が「全部の結果の平均」になっている理由
期待値の定義式 $${E(X)=\sum_k x_k P(X=x_k)}$$ は、 $${\Omega}$$ の元 $${\omega}$$ で書き直すと
$$
E(X) = \sum_{\omega\in\Omega} X(\omega)\cdot P(\{\omega\})
$$
と同じです。 $${\Omega}$$ の要素ごとに「結果が起こる確率」と「そのときの $${X}$$ の値」をかけて全部足す、という形です。
上の例題で確認しましょう。9通りの組 $${(i,j)}$$ がそれぞれ $${\frac{1}{9}}$$ で起こり、 $${X=ij}$$ の値は $${1+2+3+2+4+6+3+6+9 = 36}$$。全部足して9で割ると $${\frac{36}{9}=4}$$。同じ答えです。 2通りの和の取り方が、必ず同じ値を返す ことが期待値の便利さの一端です。
補足:無限和の場合
定義は「有限個の値をとる場合」に限定して書きました。確率変数が無限個の値をとる場合は、級数 $${\sum x_i p_i}$$ が 絶対収束する ときに限って期待値を定義します。
高校範囲では基本的に有限の場合だけ扱いますが、第IX部の漸化式では「コインを表が出るまで投げる」のように無限和が出てきます。そのときも、項がすべて非負で級数が収束する形にできるので、入試の答案では問題なく使えます。
練習問題
1から5までの番号が書かれたカードが各1枚、合計5枚入った袋から、無作為に2枚を同時に取り出す。取り出した2枚の番号の和を $${X}$$ とするとき、定義通りに $${E(X)}$$ を求めよ。
前回の記事で確率分布を書き出しました。
- $${P(X=3)=\frac{1}{10}}$$
- $${P(X=4)=\frac{1}{10}}$$
- $${P(X=5)=\frac{2}{10}}$$
- $${P(X=6)=\frac{2}{10}}$$
- $${P(X=7)=\frac{2}{10}}$$
- $${P(X=8)=\frac{1}{10}}$$
- $${P(X=9)=\frac{1}{10}}$$
定義通りに
$$
\begin{aligned}
E(X)
&= \frac{1}{10}(3 + 4 + 5\cdot 2 + 6\cdot 2 + 7\cdot 2 + 8 + 9) \\
&= \frac{3+4+10+12+14+8+9}{10} \\
&= \frac{60}{10} = 6.
\end{aligned}
$$
したがって $${E(X) = 6}$$。
ちなみに、 $${1+2+3+4+5=15}$$、平均1枚あたり3、2枚なら6、というのが「線形性で見た」答えの出し方です。同じ値になっていることを必ず確認してください。
次に読む記事
次回は、期待値の話で混同されがちな「平均値」との違いを整理します。 日常用語では同じものとして使われがちですが、数学的には別物 です。等確率のときだけ一致する、というのが正確な関係です。
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