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【期待値マスター講座12】線形性の活用 「ランダムに並べた1~nまでのカードの、1とnの間にあるカードの枚数は?」

    ゴウカライズ編集部
    30 May, 2026

    この記事では、線形性が実際に威力を発揮する典型題として、1から ${n}$ までのカードをランダムに並べたときに「 ${1}$ と ${n}$ の間にあるカードの枚数」の期待値を扱います。

    指示関数で分解するという、第IV部以降の主役の手前を体験します。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    問題:直接やると面倒だが、分解すると一発

    1から $${n}$$ までの番号がついたカードが各1枚ずつあり、これを無作為に1列に並べる。 $${1}$$ 番のカードと $${n}$$ 番のカードの間にあるカードの枚数の期待値を求めよ。ただし「間にあるカード」とは $${1}$$ 番と $${n}$$ 番の位置に挟まれた区間にあるカードを指す。

    最初に「正攻法」を頭に浮かべてみます。間にあるカードの枚数を $${X}$$ とすると、 $${X}$$ は $${0, 1, 2, \ldots, n-2}$$ のいずれかの値をとります。 $${P(X = k)}$$ を直接書き下すには、 $${1}$$ と $${n}$$ の位置を場所と距離で場合分けして、その間に $${k}$$ 枚が入る組合せを数える…と、なかなか手間です。

    ここで、 「間にあるカードの総枚数」というひとつの量を、「カード $${k}$$ が $${1}$$ と $${n}$$ の間にあるか?」という $${0/1}$$ の和に分解する という見方を入れます。

    指示関数で分解する

    $${1}$$ と $${n}$$ 以外のカードを $${2, 3, \ldots, n-1}$$ とします。 $${k\in{2, 3, \ldots, n-1}}$$ について、次の確率変数を考えます。

    $$
    I_k = \begin{cases} 1 & (\text{カード } k \text{ が } 1 \text{ と } n \text{ の間にある}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
    $$

    これは「カード $${k}$$ が条件を満たすか」を $${0/1}$$ で表す確率変数です。事象を1つ取り出した指示関数になっています。

    「間にあるカードの枚数」 $${X}$$ は、 $${k}$$ が条件を満たすたびに1ずつ増えるので

    $$
    X = \sum_{k=2}^{n-1} I_k.
    $$

    これが分解の核です。 $${X}$$ という1つの量を、 $${n-2}$$ 個の小さな部品 $${I_k}$$ の和に書き換えました。

    各部品の期待値を出す

    $${E(I_k)}$$ は、「カード $${k}$$ が $${1}$$ と $${n}$$ の間にある」という事象の確率に等しいです。これを求めます。

    ここで効くのは 対称性 です。 $${n}$$ 枚すべての並びを考えると複雑ですが、注目するのはカード $${1, k, n}$$ の3枚の相対的な順序だけです。残りの $${n-3}$$ 枚がどんな位置にあろうと、 $${1, k, n}$$ の相対順序には影響しません。

    3枚の相対順序は $${3! = 6}$$ 通りで、どの順序も等確率( $${\frac{1}{6}}$$ ずつ)です。 $${k}$$ が $${1}$$ と $${n}$$ の間にくるのは

    • $${1, k, n}$$
    • $${n, k, 1}$$

    の2通りなので

    $$
    P(I_k = 1) = \frac{2}{6} = \frac{1}{3}.
    $$

    したがって $${E(I_k) = \frac{1}{3}}$$ です。これが $${k}$$ に依らず同じ値であるところがポイントです。

    線形性で和を取る

    期待値の線形性により

    $$
    E(X) = \sum_{k=2}^{n-1} E(I_k) = (n-2)\cdot \frac{1}{3} = \frac{n-2}{3}.
    $$

    答えは $${E(X) = \frac{n-2}{3}}$$。

    たとえば $${n=10}$$ なら $${E(X) = \frac{8}{3}}$$。 $${1}$$ と $${10}$$ の間には平均すると約2.67枚のカードがあることになります。直観的にも、 $${1}$$ と $${10}$$ がカード列のどこにあるかによって間の枚数は0から8まで変わりますが、平均すると $${\frac{n-2}{3}}$$ に落ち着く、という結果です。

    $${I_k}$$ たちは独立ではない

    ここで強調しておきたいのは、 $${I_2, I_3, \ldots, I_{n-1}}$$ たちは 互いに独立ではない という点です。

    たとえば $${I_2 = 1}$$(カード $${2}$$ が間にある)と分かれば、 $${1}$$ と $${n}$$ の位置は2より外側に決まり、 $${I_3, I_4, \ldots}$$ の確率がわずかに変わります。 $${I_k}$$ たちの間には複雑な依存関係があります。

    それでも、線形性は独立性を要求しないので、何の問題もなく $${E(X) = \sum_k E(I_k)}$$ が使えました。 「分解した部品が独立かどうかを気にしなくていい」 のが、この道具の決定的な強みです。

    練習問題:昇順となる隣接ペア

    1から $${n}$$ までの番号がついたカード $${n}$$ 枚を無作為に並べたとき、連続する2枚 $${(a_k, a_{k+1})}$$ について $${a_k < a_{k+1}}$$ となる $${k}$$ の個数の期待値を求めよ。

    $${k\in{1, 2, \ldots, n-1}}$$ について

    $$
    I_k = \begin{cases} 1 & (a_k < a_{k+1}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
    $$

    とおきます。 $${a_k, a_{k+1}}$$ は $${1, \ldots, n}$$ から重複なく選ばれた2数で、どちらが大きいかは対称性から確率 $${\frac{1}{2}}$$ で決まります。

    線形性により

    $$
    E\Bigl(\sum_{k=1}^{n-1} I_k\Bigr) = (n-1)\cdot \frac{1}{2} = \frac{n-1}{2}.
    $$

    答えは $${\frac{n-1}{2}}$$。

    これは京大2026年の問題(シリーズ第1記事で取り上げたもの)と表裏の関係にあります。京大の問題は「降順となる隣接ペア」の個数を数える趣旨で、対称性から「昇順となる個数」と「降順となる個数」の期待値はいずれも $${\frac{n-1}{2}}$$、両者の和が $${n-1}$$ になります。

    ここでも $${I_1, I_2, \ldots, I_{n-1}}$$ は独立ではありません(隣接するペアは中央のカードを共有する)が、線形性は問題なく使えます。

    戦略の言い換え

    ここまでで2つの典型題を見ました。共通している流れは次の通りです。

    1. 数えたい量 $${X}$$ を、「各 $${k}$$ について条件が満たされるか?」という $${0/1}$$ 確率変数 $${I_k}$$ の和に書き換える。
    2. $${P(I_k = 1)}$$ を、対称性や余事象などで簡単に計算する。
    3. 線形性で $${E(X) = \sum_k E(I_k)}$$ を出す。

    このパターンは、第IV部「指示関数の基本」、第V部「指示関数の利用」で何度も再登場します。 「分解する」「対称性で確率を出す」「線形性で和を取る」 の3拍子を、いまのうちに体に馴染ませてください。

    次に読む記事

    次回は、線形性だけでは押し切れない場面を扱います。最大値 $${M}$$ について $${E(M^2)}$$ のように、「和の形に書けない」量を求めるときは、線形性を呼んでも何も出てきません。どこで線形性が止まるかを知っておくと、判断に迷いません。

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