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【獣医学部 面接・小論対策】 気候変動と動物の感染症――獣医学部志望者が押さえるべき論点

    ゴウカライズ編集部
    25 June, 2026

    気温が上がれば蚊の生息域が広がり、蚊が媒介する感染症も広がります。気候変動は、動物の感染症の分布を変えつつあり、獣医師が対応すべき疾病の地図そのものを書き換えようとしています。

    面接・小論文で「気候変動と獣医師の関係」を聞かれたとき、「地球温暖化は問題です」で終わってしまう受験生は少なくありません。

    この記事では、気候変動が動物の感染症にどう影響するかを具体的に整理し、獣医師としての視点を持って答える方法を解説します。

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    テーマの概要

    気候変動は気温や降水パターンの変化を通じて、病原体を運ぶ節足動物(蚊、ダニなど)の生息域を拡大させ、感染症の分布を変化させます。これまで温帯地域では見られなかった媒介蚊の分布域拡大や、牛のアルボウイルス感染症(イバラキ病など)の流行地域の北上が報告されており、獣医師が診る動物の疾病パターンにも影響が出始めています。One Healthの観点から面接・小論文で問われやすいテーマです。

    テーマの基礎知識

    重要語句

    節足動物媒介感染症 :蚊やダニなどの節足動物が病原体を運び、動物や人に感染させる疾病の総称。獣医学で重要なものとして、犬糸状虫症(フィラリア症)、犬バベシア症、牛のアルボウイルス感染症(イバラキ病など)、また人獣共通感染症である日本脳炎やウエストナイル熱などが含まれる。

    ベクター :病原体を保有し、他の生物に伝播させる生物のこと。蚊やダニがその代表。気温が上がるとベクターの活動期間が長くなり、生息可能な地域も拡大する。

    犬糸状虫症(フィラリア症) :蚊によって媒介される寄生虫が犬の心臓や肺動脈に寄生する疾病。気温上昇で蚊の活動期間が延びると、予防投薬の期間も長くなる。

    バベシア症 :マダニを媒介とする原虫(主にBabesia gibsoni)が赤血球に寄生し、重度の貧血や発熱を引き起こす、犬にとって重要なマダニ媒介性疾患。国内では西日本を中心に分布していますが、温暖化によるダニの分布拡大に伴い、他地域への発生地域拡大が懸念されています。

    熱ストレス :気温上昇により動物の体温調節能力が追いつかなくなる状態。乳牛では乳量低下や繁殖成績の悪化を招き、鶏では産卵率低下や死亡率上昇の原因になる。

    事実・論点・背景

    気候変動と感染症の実態

    IPCCの報告書は、2011〜2020年における地球の平均気温が産業革命前から約1.1℃上昇したとしています。また世界気象機関(WMO)によれば、2025年の世界平均気温は産業革命前と比べて約1.44℃高くなっており、温暖化はさらに進行しています。この変化は、蚊やダニの生息域を高緯度・高標高に広げています。

    日本では、ヒトスジシマカ(デング熱を媒介する蚊)の分布域が北上を続けています。1948年頃は栃木県北部が北限とされていましたが、1990年代以降に東北地方へ広がりました。2015年には青森県(青森港・八戸港など)で侵入が確認され、現在は県内で定着していると考えられています(なお、北海道では生息が確認されていません)。動物への影響としては、近年の気温データに基づいて犬のフィラリア症の予防投薬期間の見直しを検討する動物病院が増えています。また、国内では西日本を中心にみられるバベシア症の発生地域の拡大も懸念されています。

    家畜への影響も出ています。夏場の乳牛の乳量低下は深刻で、北海道でも帯広などの主要な酪農地帯でTHI(温湿度指数)の上昇傾向がみられ、乳牛に暑熱ストレスが発生しうる環境(THI68以上)になる日が増えています。鶏は発汗による体温調節ができず暑さに弱い動物であり、夏季の産卵率や卵重の低下のほか、鶏舎内の気温管理が追いつかないと熱中症による大量死につながることもあります。

    なぜ獣医師にとって重要なのか

    気候変動の影響は緩やかに見えるため、日々の臨床では気づきにくいという問題があります。しかし、「これまでこの地域にはなかった病気」が出現したとき、最初にそれに気づくのは現場の獣医師です。

    もうひとつの問題は、気候変動と感染症の関係は単純な因果ではないという点です。気温だけでなく、降水量の変化、土地利用の変化(森林伐採による野生動物と家畜・人の接触増加)、国際的な人・物の移動など、複数の要因が絡み合っています。「温暖化→蚊が増える→感染症が増える」という単線的な説明では不十分で、多因子的な理解が必要です。

    主な論点

    予防戦略の見直し :フィラリア予防薬の投与期間の延長、ダニ駆除薬の通年投与の検討、家畜の暑熱対策への投資など、気候変動を前提とした予防獣医学の再設計が求められています。

    新興感染症への備え :国内での感染報告がないウエストナイル熱の侵入や、輸入犬等での鑑別が必要となるリーシュマニア症といった、国内で常在していない感染症への備えが必要です。獣医師がこれらの疾病を鑑別診断できる知識と検査体制の整備が課題になります。

    畜産の適応と緩和 :畜産業自体が温室効果ガスの排出源であるという側面と、気候変動の被害者であるという二面性があります。排出削減(緩和策)と暑熱対策(適応策)の両方に獣医師は関わります。

    野生動物の感染症変動 :気候変動は野生動物の生息域も変え、これまで接触がなかった種同士を近づけます。新たな病原体のスピルオーバー(種を超えた伝播)のリスクが高まります。

    複数の視点から見る

    動物愛護・福祉の立場から

    熱ストレスは動物の苦痛に直結します。畜舎の空調設備導入、放牧時間の調整、飲水量の確保など、飼養環境の改善は動物福祉の問題として急務です。また、気候変動で新たに広がる感染症に対して、早期診断と予防策を整えることは、動物を不必要な苦痛から守ることにつながります。

    公衆衛生・農業経済の立場から

    乳量の低下、産卵率の低下、熱中症による死亡は農家の経済損失に直結します。暑熱対策設備の導入にはコストがかかり、とくに小規模農家には大きな負担です。一方、節足動物媒介感染症の中には人獣共通感染症も含まれており、動物での発生監視が人の感染予防に直結するケースがあります。

    獣医師として求められる立場

    産業動物獣医師として :暑熱対策の指導(畜舎環境の改善、飼料配合の調整、繁殖管理の見直し)、気候変動に伴う新たな感染症の鑑別診断、予防プログラムの見直しを行います。地域の気候データと疾病発生データを照合して、早期警戒につなげる役割も担います。

    行政獣医師として :節足動物の分布調査、媒介感染症のサーベイランス(監視)体制の強化、新興感染症発生時の初動対応計画の策定に関わります。気象情報と疾病情報を組み合わせた予測システムの構築も課題です。

    野生動物・環境分野として :野生動物の生息域変化と感染症パターンの変動をモニタリングし、新たなスピルオーバーのリスクを評価します。渡り鳥の飛来パターンの変化と鳥インフルエンザの関連調査なども含まれます。

    公衆衛生・研究分野として :気候変動と感染症の関連を疫学的に分析し、予測モデルの開発、新興感染症の診断法開発、ワクチン研究を進めます。気候変動シナリオに基づいた将来リスクの評価も重要な研究テーマです。

    求められるスタンス :気候変動への対応は長期的な視野が必要です。日々の臨床で「この地域にこの病気は珍しい」と気づいたときに、気候変動との関連を考えられるかどうか。獣医師は環境の変化を動物の健康を通じて最初に察知できる立場にいます。One Healthの視点を持ち、気象学者、生態学者、医師と連携して対応することが求められます。

    面接・小論文で問われたら

    気候変動と感染症に関連して、次のような質問が問われやすいです。

    • 気候変動は動物の感染症にどう影響するか
    • ベクター媒介感染症とは何か、具体例を挙げよ
    • 気候変動と獣医師の仕事はどう関係するか
    • 畜産における暑熱対策と獣医師の役割
    • 新興感染症への備えとして何が必要か
    • 気候変動とOne Healthの関係
    • 畜産業の温室効果ガス排出についてどう考えるか

    ここでは代表的な2問について、回答の骨子と解説を示します。

    気候変動が動物の感染症に与える影響をどう説明するか

    回答の骨子

    • 気温上昇で蚊やダニの生息域と活動期間が拡大する
    • これまでなかった地域に媒介感染症が広がる(フィラリア、バベシアなど)
    • 家畜の暑熱ストレスが免疫応答を攪乱し、感染症への感受性を高めるリスクがある
    • 野生動物の生息域変化で新たな病原体との接触が増える
    • 獣医師が診る疾病の種類や予防戦略の見直しが必要になる

    解説

    「温暖化で感染症が増えます」という一般論では面接の答えになりません。具体的にどの感染症がどう変化しているかを挙げ、獣医師がそこにどう関わるかまで述べることが大切です。フィラリア予防期間の延長やダニ媒介疾患の北上といった身近な例から入ると、抽象論で終わらない答えになります。

    畜産業は温室効果ガスの排出源でもあるが、獣医師としてどう考えるか

    回答の骨子

    • 畜産業が温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素)の排出源である事実は認める
    • 同時に、畜産は食料供給の基盤でもある
    • 獣医師は家畜の健康管理を通じて生産効率を向上させ、結果的に排出原単位を下げる役割を担う
    • 飼料効率の改善や繁殖成績の向上は排出削減にもつながる

    解説

    「畜産をやめるべきだ」と言い切る受験生はまずいませんが、この問いに対して「畜産は必要だから仕方ない」だけでも浅い答えです。獣医師ならではの視点として、家畜の健康管理と生産効率の向上が排出削減にも貢献しうることを示すと、獣医師としての関わり方を具体的に語れる答えになります。


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    まとめ

    気候変動は、獣医師が診る動物の感染症マップを書き換えつつあります。蚊やダニの分布拡大、家畜の熱ストレス、新興感染症のリスク増大――どれも目の前の動物を診るだけでは対応できない課題です。獣医師は、環境の変化を動物の健康変化として最初に察知し、他分野の専門家と連携してリスクに備える。その役割は、気候変動が進むほど重くなります。

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