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【母関数マスター講座 第1回】母関数とは何か?〜数え上げを多項式に丸投げする魔法〜
【母関数マスター講座 第1回】母関数とは何か?〜数え上げを多項式に丸投げする魔法〜
プロローグ(第0回)で紹介した、数え上げを自動化する魔法、「母関数」。
今回は、まずその正式な定義を確認したうえで、魔法が起きる根本的な原理を、一番簡単なコインの問題から始めて解説します。
0. 母関数の正式な定義
数列 $${a_0, a_1, a_2, \ldots}$$ が与えられたとき、これを係数とする冪級数
$$
\begin{aligned}
F(x) = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n
\end{aligned}
$$
を、この数列の 母関数 と呼びます。
ここで $${x}$$ は「形式的な不定元」として扱います。収束するかどうかを気にせず、係数の情報を $${x}$$ のべき乗に乗せたまま操作します。このような式を形式的冪級数と言います。
母関数の基本的な使い方は次の通りです。
- $${x^n}$$ の次数 $${n}$$ に「数え上げの条件」を対応させる(表の枚数、目の和など)
- $${x^n}$$ の係数 $${a_n}$$ に「その条件を満たす場合の数」を対応させる
- 式の演算(展開・代入・微分など)を通じて目当ての係数を取り出す
以降では、この対応を使って実際に母関数を組み立てていきます。その出発点となるのは、多項式の展開の最も基本的なルールです。
1. 展開の根本:「カッコから項を1個ずつ選んでかける」
多項式の掛け算をするとき、私たちは無意識に以下のルールに従っています。
$$
\begin{aligned}
(A + B)(C + D) = AC + AD + BC + BD \tag{①}
\end{aligned}
$$
①より、展開とは「左のカッコ $${(A+B)}$$ から1つの項( $${A}$$ または $${B}$$ )を選び、右のカッコ $${(C+D)}$$ から1つの項( $${C}$$ または $${D}$$ )を選んで、掛け合わせたものの合計」であることがわかります。
この「カッコから1個ずつ選ぶ」という操作が、場合の数の「条件を選ぶ」という操作と完全に一致するのです。
コインの例
2枚のコインを投げて表が出る枚数を数えるマシーンを作ってみます。
裏が出た(表が0枚)状態を $${1}$$ (または $${x^0}$$ )、表が出た(表が1枚)状態を $${x}$$ (または $${x^1}$$ )と翻訳します。すると、2枚のコインの運命は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
(1 + x)(1 + x) = 1 + 2x + x^2 \tag{②}
\end{aligned}
$$
②を解読してみましょう。
$${1}$$ (つまり $${1 \times x^0}$$ ):表が0枚になるのは1通り(両方裏)。
$${2x}$$ (つまり $${2 \times x^1}$$ ):表が1枚になるのは2通り(表裏、裏表)。
$${x^2}$$ (つまり $${1 \times x^2}$$ ):表が2枚になるのは1通り(両方表)。
$${x}$$ の次数(右肩の数字)が「表の枚数」を、その前の数字(係数)が「その状態になる場合の数」を表しているのがわかります。
2. カッコから選ぶ操作と係数
次に、少し複雑な展開を考えてみます。
$$
\begin{aligned}
(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)(x-\delta) \tag{③}
\end{aligned}
$$
③の展開式における $${x^2}$$ の係数を求めたいとします。
$${x^2}$$ を作りたければ、この4つのカッコのうち2つのカッコから $${x}$$ を選び、残りの2つのカッコからは $${x}$$ 以外の項( $${-\alpha, -\beta, -\gamma, -\delta}$$ )を選ばなければなりません。
求める $${x^2}$$ の係数は、このような組み合わせのすべての和、すなわち「 $${-\alpha, -\beta, -\gamma, -\delta}$$ から異なる2個を選んでかけて得られる項たちの和」となります。符号まで込めて整理すると、
$$
\begin{aligned}
\alpha\beta + \alpha\gamma + \alpha\delta + \beta\gamma + \beta\delta + \gamma\delta
\end{aligned}
$$
これは高校数学で習う「解と係数の関係」そのものですね。母関数の視点で見ると、解と係数の関係もシステマチックに理解できます。
3. 二項定理と母関数
この「 $${n}$$ 個のカッコからいくつか選ぶ」という操作の一般論が、教科書で習う二項定理です。
$$
\begin{aligned}
(1+x)^n = \sum_{k=0}^n {}_n\mathrm{C}_k x^k \tag{④}
\end{aligned}
$$
④の左辺は $${(1+x)(1+x)\cdots(1+x)}$$ という $${n}$$ 個のカッコの掛け算です。
ここから $${x}$$ を選ぶカッコを $${k}$$ 個選び、残りの $${n-k}$$ 個のカッコからは $${1}$$ を選ぶ。その選び方は $${{}_n\mathrm{C}_k}$$ 通りあるので、 $${x^k}$$ の係数は $${{}_n\mathrm{C}_k}$$ になる、ということです。
母関数では、組み合わせの公式 $${{}_n\mathrm{C}_k}$$ を、「 $${(1+x)^n}$$ を展開したときの $${x^k}$$ の係数」として解釈できます。
4. 母関数の威力を実感!約数の総和
最後に、「360の正の約数の総和」を求める問題を母関数で一掃してみましょう。
360を素因数分解すると、 $${360 = 2^3 \cdot 3^2 \cdot 5^1}$$ です。
約数とは、「 $${2}$$ を0〜3個、 $${3}$$ を0〜2個、 $${5}$$ を0〜1個選んで掛け合わせたもの」です。
まず、各素因数の「指数の選び方」を母関数に翻訳します。
$$
\begin{aligned}
F(x, y, z) = (1+x+x^2+x^3)(1+y+y^2)(1+z) \tag{⑤}
\end{aligned}
$$
⑤を展開すると、各項 $${x^a y^b z^c}$$ は「2の指数を $${a}$$ 、3の指数を $${b}$$ 、5の指数を $${c}$$ にする」という選択に1対1に対応します。
ここで代入の魔法が登場します。 $${x = 2, , y = 3, , z = 5}$$ を代入すると、各単項式 $${x^a y^b z^c}$$ が $${2^a \cdot 3^b \cdot 5^c}$$ 、つまり約数そのものの値に変わります。展開の和はすべての約数の値を足し上げたもの、すなわち約数の総和です。
$$
\begin{aligned}
F(2, 3, 5) &= (1+2+4+8)(1+3+9)(1+5) \\
&= 15 \cdot 13 \cdot 6 \\
&= 1170 \tag{⑥}
\end{aligned}
$$
ちなみに $${x = y = z = 1}$$ を代入すれば、すべての項が $${1}$$ になるので、 $${F(1,1,1) = 4 \cdot 3 \cdot 2 = 24}$$ 個という約数の個数も即座に出ます。
⑥は、「母関数を組み立てて、代入する」という操作だけで、約数を全部書き出す手間なく総和を求められることを示しています。代入の値を変えるだけで「個数」にも「総和」にもなる。この柔軟さが母関数の強みです。
まとめ
母関数の根本にあるのは、多項式の展開における「カッコから項を1個ずつ選んでかける」というルールです。次回、第2回からは、このルールをサイコロや硬貨の支払いといった、より実戦的な問題に拡張していきます。
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