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【期待値マスター講座14】 "従属"した確率変数でも線形性は揺るがない (例題付き)
この記事では、第II部の締めくくりとして、 ${X}$ と ${Y = 7 - X}$ という強く従属した確率変数のペアで、それでも ${E(X + Y) = E(X) + E(Y)}$ が成立することを具体的に確かめます。線形性に独立性は要らない、を反例にぶつけて押さえる回です。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
設定
さいころを1回振り、出た目を $${X}$$ とする。 $${Y = 7 - X}$$ とおく。
(1) $${X}$$ と $${Y}$$ は独立でないことを示せ。
(2) $${E(X + Y)}$$ を、線形性を使う方法と、 $${X + Y}$$ の値を直接見る方法の2通りで求めよ。
$${Y = 7 - X}$$ という設計は、 $${X}$$ の値が決まれば $${Y}$$ が一意に決まる、極端な従属関係です。たとえば $${X = 1}$$ なら $${Y = 6}$$、 $${X = 2}$$ なら $${Y = 5}$$、…という対応です。
これは現実のさいころで言うと「上の面の目」と「下の面の目」の関係に対応します(向かい合う面の和は7)。
(1) 独立でないこと
定義に当てはめて確認します。 $${P(X = 1) = \frac{1}{6}}$$、 $${P(Y = 1) = P(X = 6) = \frac{1}{6}}$$ ですが
$$
P(X = 1,\ Y = 1) = 0
$$
なぜなら $${Y = 1}$$ となるのは $${X = 6}$$ のときだけで、 $${X = 1}$$ と $${X = 6}$$ は同時には起こらないからです。
一方
$$
P(X = 1)\cdot P(Y = 1) = \frac{1}{6}\cdot \frac{1}{6} = \frac{1}{36} \ne 0.
$$
独立の式 $${P(X=x, Y=y) = P(X=x)P(Y=y)}$$ が破れているので、 $${X}$$ と $${Y}$$ は独立ではありません。
これは「2つずつ独立」どころか 一方が決まれば他方も決まる 強い従属関係です。
(2) 線形性で求める
$${E(X) = \frac{7}{2}}$$ はさいころの目の期待値そのもの。 $${Y = 7 - X}$$ なので、線形性から
$$
E(Y) = E(7 - X) = E(7) - E(X) = 7 - \frac{7}{2} = \frac{7}{2}.
$$
ここで定数 $${7}$$ は「確率1で値7をとる確率変数」と見て期待値が7になる、という話を第II部の証明回で扱いました。
したがって、再び線形性で
$$
E(X + Y) = E(X) + E(Y) = \frac{7}{2} + \frac{7}{2} = 7.
$$
(2) 直接見る
別の方法でも確かめます。任意の試行結果について
$$
X + Y = X + (7 - X) = 7
$$
なので、 $${X + Y}$$ は定数 $${7}$$ です。確率変数として常に $${7}$$ をとるので
$$
E(X + Y) = 7.
$$
2通りで $${E(X + Y) = 7}$$ が得られました。
何が確認できたか
ここで大切なのは、 $${X}$$ と $${Y}$$ が独立でないにもかかわらず 、線形性 $${E(X + Y) = E(X) + E(Y)}$$ がそのまま成り立った、という事実です。
直接計算で「 $${X + Y}$$ が定数」とすぐ分かる問題なので、線形性のありがたみは見えにくいかもしれません。けれど、メッセージとしては「線形性は独立性に依存しない」ことを実例で確かめた回として価値があります。
仮にもっと複雑な従属関係(たとえば $${Y = X^2}$$ や、非復元抽出の2回目の数)であっても、 $${E(X + Y) = E(X) + E(Y)}$$ は同じように成立します。
積の期待値には別の条件が要る
線形性とは対照的に、 積の期待値 $${E(XY) = E(X)E(Y)}$$ は無条件には成り立ちません 。独立性は十分条件ですが、必要条件はそれより弱く「無相関(共分散 $${0}$$ )」です。今回の $${X, Y = 7 - X}$$ は無相関でもないので、等号は破れます。確かめてみます。
$${XY = X(7 - X) = 7X - X^2}$$ なので
$$
E(XY) = 7 E(X) - E(X^2) = 7\cdot \frac{7}{2} - \frac{91}{6} = \frac{49}{2} - \frac{91}{6} = \frac{147 - 91}{6} = \frac{56}{6} = \frac{28}{3}.
$$
一方
$$
E(X)\cdot E(Y) = \frac{7}{2}\cdot \frac{7}{2} = \frac{49}{4}.
$$
両者を比較すると
$$
E(XY) = \frac{28}{3} = \frac{112}{12},\quad E(X)E(Y) = \frac{49}{4} = \frac{147}{12}
$$
で一致しません。 積の公式は独立性を含む十分条件のもとで成り立つもので、無相関でなければ等号は破れうる ことが確認できます。なお「独立 $${\Rightarrow}$$ 無相関」は無条件で成立しますが、「無相関 $${\Rightarrow}$$ 独立」は一般には成立しないことも、ここで思い出しておいてください。
これは第VII部「成り立たない性質」で本格的に扱いますが、ここでも線形性との対比として頭に入れておいてください。
第II部のまとめ
第II部では期待値の線形性を中心に扱いました。確認しておきたいのは次の点です。
- 線形性 $${E(aX + bY) = aE(X) + bE(Y)}$$ は任意の確率変数に対して成立し、独立性は要らない。
- 戦略:求めたい量を「期待値が簡単な小さな部品」の和に分解し、各部品の期待値を線形性で足す。
- 射程:和に対する性質。 $${E(XY)}$$、 $${E(X^2)}$$、 $${E(\max)}$$ などは線形性だけでは扱えない。
- 積の期待値 $${E(XY) = E(X)E(Y)}$$ は独立性が十分条件(必要条件は無相関)。線形性とは対照的に、確率変数間の関係に依存する。
次の第III部からは、線形性の使い方を典型問題で繰り返し練習します。くじ引きの公平性、復元・非復元抽出、袋の中のボール問題など、教科書から入試レベルへの橋渡しになる題材です。
練習問題
$${X, Y}$$ を確率変数とし、 $${E(X) = 4}$$、 $${E(Y) = -1}$$、 $${E(XY) = 2}$$ が分かっているとする。次の値を求めよ。
(a) $${E(X + Y)}$$
(b) $${E(2X - 3Y + 5)}$$
(c) $${X}$$ と $${Y}$$ は独立か。
(a) 線形性から $${E(X + Y) = E(X) + E(Y) = 4 + (-1) = 3}$$。
(b) 線形性から $${E(2X - 3Y + 5) = 2E(X) - 3E(Y) + 5 = 2\cdot 4 - 3\cdot (-1) + 5 = 8 + 3 + 5 = 16}$$。
(c) 独立なら $${E(XY) = E(X)E(Y)}$$ になるはず。 $${E(X)E(Y) = 4\cdot (-1) = -4}$$ で、 $${E(XY) = 2}$$ と一致しません。したがって $${X}$$ と $${Y}$$ は 独立ではありません 。
(a) と (b) は独立性に関係なく決まりますが、(c) の判定には積の期待値が必要、という対比に注意してください。
次に読む記事
次回からは第III部「基本問題の演習編」です。線形性を典型題に乗せる練習を、5本にわたって続けます。まずは「くじ引きの公平性」を線形性で証明する話から始めます。「引く順番で当たる確率が変わらない」という、よく知られた事実の背後にある美しい議論です。
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