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【期待値マスター講座15】"くじ引きの公平性"を理解していますか? 何番目に引いてもくじ引きは平等です!
この記事では、「くじ引きで何番目に引いても当たる確率は変わらない」という有名な事実を、期待値の言葉で美しく証明します。
線形性を使うと、対称性の議論にぐっと見通しが立ちます。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
「順番で変わるか」の素朴な疑問
くじ引きの場面を想像してください。 $${n}$$ 本のくじの中に当たりが $${r}$$ 本含まれていて、 $${n}$$ 人が順番に1本ずつ引いていく。引いたくじは戻さない。
1番目に引く人が一番有利な気がする、と感じる人は多いです。逆に「先に引いてしまうと残り物に福がある」と思う人もいます。結論を先に言うと、 何番目に引いても当たる確率はすべて $${\frac{r}{n}}$$ で同じ です。
これを直接示そうとすると、 $${k}$$ 番目の人について「それまでの $${k-1}$$ 人がどんな結果でも、自分が当たる確率を出す」という和を全部計算することになり、煩雑です。ところが、期待値の線形性と指示関数を使うと、たった一段で結論が出ます。
例題:くじを引く順番と当たる確率
$${n}$$ 本のくじの中に当たりが $${r}$$ 本含まれている。 $${n}$$ 人が順番にくじを引き、引いたくじは戻さないとする。 $${k}$$ 番目に引く人が当たる確率を $${p_k}$$ とする。すべての $${k\in{1, 2, \ldots, n}}$$ について $${p_k = \frac{r}{n}}$$ であることを示せ。
ここで、 $${k}$$ 番目の人が当たるという事象に対して指示関数
$$
I_k = \begin{cases} 1 & (k \text{ 番目が当たり}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
$$
を考えます。 $${I_k}$$ の期待値は事象の確率に等しいので
$$
E(I_k) = P(I_k = 1) = p_k.
$$
ここで注目したいのは、 $${I_1 + I_2 + \cdots + I_n}$$ という和です。これは「 $${n}$$ 人全員が引き終わったときに、当たりを引いた人の総数」と一致します。
ところが、 $${n}$$ 人全員が引き終わると、 当たりは合計 $${r}$$ 本だけ引かれる ことが確定しています。引いたくじは戻さないので、最初に箱に入っていた $${r}$$ 本の当たりは、ちょうど $${r}$$ 人の手に渡ります。つまり
$$
\sum_{k=1}^{n} I_k = r\quad (\text{確率1で確定})
$$
です。両辺の期待値をとると
$$
\sum_{k=1}^{n} p_k = E\Bigl(\sum_{k=1}^{n} I_k\Bigr) = E(r) = r.
$$
対称性で詰める
ここまでで、 $${p_1 + p_2 + \cdots + p_n = r}$$ までは出ました。あとは「すべての $${p_k}$$ が等しい」ことが言えれば、 $${n}$$ 個の和が $${r}$$ なので $${p_k = \frac{r}{n}}$$ となります。
対称性で詰めます。 $${n}$$ 本のくじを並べて1番目、2番目、…と順に引くのは、最初に $${n}$$ 個の空席を用意して、当たり $${r}$$ 個・はずれ $${n-r}$$ 個をランダムに割り当てるのと 本質的に同じ操作 です。どの席(つまりどの順番)にも、当たりが入る確率は同じです。
したがって $${p_1 = p_2 = \cdots = p_n}$$ で、これと総和 $${r}$$ を合わせて
$$
p_k = \frac{r}{n}\quad (k = 1, 2, \ldots, n).
$$
何が効いたか
ポイントを整理します。
- 「 $${k}$$ 番目が当たる」を指示関数 $${I_k}$$ で書く
- 指示関数の和 $${\sum I_k}$$ が「当たりの総数」となり、これが 確定値 $${r}$$ であることに気付く
- 線形性 $${E(\sum I_k) = \sum E(I_k)}$$ で、確率の総和が $${r}$$ と分かる
- 対称性で全 $${p_k}$$ が等しいと分かれば、 $${p_k = \frac{r}{n}}$$ が確定
ここで $${I_k}$$ たちは 互いに独立ではありません (前に当たりを引かれると、後ろの当たり確率は変わる)。それでも線形性は問題なく使えます。第II部で何度も確認した「独立性に依存しない」が、ここでも効いています。
このパターン──「全体の和が確定値になる」「線形性で確率の総和を出す」──は、シリーズ第IV部・第V部で繰り返し登場します。今回が最も基本的な例です。
直接計算と比べてみる
参考までに、 $${k}$$ 番目が当たる確率を直接計算するとどうなるか、 $${n=3, r=1}$$(3本中1本当たり)の場合で見てみます。
- $${p_1 = \frac{1}{3}}$$(明らか)
- $${p_2 = }$$ 「1番目がはずれ、かつ2番目が当たり」$$= \frac{2}{3}\cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{3}}$$
- $${p_3 = }$$ 「1番目も2番目もはずれ、3番目が当たり」$$= \frac{2}{3}\cdot \frac{1}{2}\cdot 1 = \frac{1}{3}}$$
3つとも $${\frac{1}{3}}$$。条件付き確率を細かく追えば確かに同じ値になりますが、 $${n}$$ や $${r}$$ が大きくなると場合分けが膨らみ、見通しが立ちません。線形性を使った今回の議論は、 $${n, r}$$ がどんなに大きくてもそのまま通用します。
練習問題
1から10までの番号が書かれたカード10枚が袋に入っている。10人が順番に1枚ずつ引き、引いたカードは戻さない。「5番目に引いた人のカードに書かれている番号」の期待値を求めよ。
5番目に引いた人のカードの番号を $${X}$$ とします。 $${X}$$ がとる値は $${1, 2, \ldots, 10}$$ のいずれかです。
対称性から、 $${X}$$ がどの番号になる確率も等しく $${\frac{1}{10}}$$ です(さきほどの「くじ引きで何番目でも当たり確率は同じ」の議論が、「番号 $${i}$$ を引く確率」にも同様に適用できる)。したがって
$$
E(X) = \sum_{i=1}^{10} i\cdot \frac{1}{10} = \frac{1+2+\cdots+10}{10} = \frac{55}{10} = \frac{11}{2}.
$$
答えは $${E(X) = \frac{11}{2}}$$。これは「1番目に引いた人」「3番目に引いた人」など、何番目の人にとっても同じ値です。引く順番に関係なく、 取ったカードの番号の期待値は全体の平均 に等しい、というのが今回の議論の自然な拡張になっています。
次に読む記事
次回は、似た構造を持つ「復元抽出」での期待値を扱います。引いたら戻すという設定だと、各回が独立な確率変数になり、線形性が一段すっきり効きます。非復元との対比のために、まず復元から見ていきます。
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