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【期待値マスター講座36】V(X+Y)=V(X)+V(Y)はいつ成り立つ!? 分散の加法性が成り立つ条件を理解する
この記事では、分散の定義 ${V(X) = E((X - E(X))^2)}$ から始めて、「独立な確率変数の積の期待値」と「分散の加法性」を整理します。
線形性とは対照的に、独立性(より厳密には無相関)が前提として効いてくる性質です。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
分散の定義
確率変数 $${X}$$ について
$$
V(X) = E\bigl((X - E(X))^2\bigr)
$$
を $${X}$$ の 分散 と呼びます。値のばらつき具合を、平均からの差の二乗の期待値で測ったものです。
定義式から $${V(X)\ge 0}$$ は明らか(二乗の期待値は非負)。等号が成立するのは $${X}$$ が定数のとき、つまりばらつきがゼロのときです。
展開して整理すると
$$
\begin{aligned}
V(X)
&= E(X^2 - 2X\cdot E(X) + E(X)^2) \\
&= E(X^2) - 2 E(X)\cdot E(X) + E(X)^2 \\
&= E(X^2) - E(X)^2.
\end{aligned}
$$
途中で $${E(X)}$$ を定数として線形性から $${E(2X\cdot E(X)) = 2 E(X)\cdot E(X)}$$、 $${E(E(X)^2) = E(X)^2}$$ を使いました。
$$
V(X) = E(X^2) - E(X)^2
$$
これが分散の計算でよく使う公式形です。 「二乗の期待値 $${-}$$ 期待値の二乗」 と覚えておきます。
独立な確率変数の積
定理:$${X, Y}$$ が独立な確率変数ならば
$$
E(XY) = E(X)\cdot E(Y).
$$
証明は記事7で示した通り、独立性から $${P(X=x, Y=y) = P(X=x)P(Y=y)}$$ となり、和を分離して
$$
E(XY) = \sum_{x, y} xy\cdot P(X=x, Y=y) = \Bigl(\sum_x x\cdot P(X=x)\Bigr)\Bigl(\sum_y y\cdot P(Y=y)\Bigr) = E(X)E(Y).
$$
ここで強調しておきたいのは、 独立性は十分条件であって必要条件ではない こと。 $${E(XY) = E(X)E(Y)}$$ が成り立つ条件は、より弱く 「無相関」 ( $${\mathrm{Cov}(X, Y) = 0}$$)で十分です。独立なら無相関ですが、無相関でも独立とは限らないので、 無相関は独立より広いクラス です。
分散の加法性
定理:$${X, Y}$$ が独立な確率変数ならば
$$
V(X + Y) = V(X) + V(Y).
$$
証明します。 $${V(X + Y) = E((X + Y)^2) - E(X + Y)^2}$$ で
$$
\begin{aligned}
V(X + Y)
&= E(X^2 + 2XY + Y^2) - (E(X) + E(Y))^2 \\
&= E(X^2) + 2 E(XY) + E(Y^2) - E(X)^2 - 2 E(X)E(Y) - E(Y)^2 \\
&= \bigl(E(X^2) - E(X)^2\bigr) + \bigl(E(Y^2) - E(Y)^2\bigr) + 2\bigl(E(XY) - E(X)E(Y)\bigr) \\
&= V(X) + V(Y) + 2\bigl(E(XY) - E(X)E(Y)\bigr).
\end{aligned}
$$
独立なら最後の項 $${E(XY) - E(X)E(Y) = 0}$$ なので $${V(X + Y) = V(X) + V(Y)}$$。
ここでも 独立性は十分条件 です。最後の項を 共分散 と呼んで $${\mathrm{Cov}(X, Y) = E(XY) - E(X)E(Y)}$$ と書くと
$$
V(X + Y) = V(X) + V(Y) + 2 \mathrm{Cov}(X, Y).
$$
共分散が0(つまり無相関)であれば、加法性 $${V(X + Y) = V(X) + V(Y)}$$ が成り立ちます。詳しくは次回以降で扱います。
例題:さいころ$${n}$$回振りの和の分散
さいころを $${n}$$ 回独立に振り、出た目の和を $${S}$$ とする。 $${V(S)}$$ を求めよ。
各回の目を $${X_k}$$ とし、 $${S = \sum_{k=1}^{n} X_k}$$。各回は独立。
まず1回の分散 $${V(X_1)}$$ を出します。 $${E(X_1) = \frac{7}{2}}$$、 $${E(X_1^2) = \frac{1 + 4 + 9 + 16 + 25 + 36}{6} = \frac{91}{6}}$$ なので
$$
V(X_1) = \frac{91}{6} - \Bigl(\frac{7}{2}\Bigr)^2 = \frac{91}{6} - \frac{49}{4} = \frac{182 - 147}{12} = \frac{35}{12}.
$$
各回が独立なので、分散の加法性から
$$
V(S) = \sum_{k=1}^{n} V(X_k) = n\cdot \frac{35}{12} = \frac{35n}{12}.
$$
「2回振った目の和の分散は $${\frac{35\cdot 2}{12} = \frac{35}{6}}$$」のように、 $${n}$$ に線形にスケールします。
加法性が破れる例
独立でない場合、分散の加法性は破れます。具体例で確認します。
さいころを1回振り、出た目を $${X}$$、 $${Y = 7 - X}$$ とおく。 $${V(X + Y)}$$ と $${V(X) + V(Y)}$$ を比較せよ。
$${X + Y = 7}$$(定数)なので、 $${V(X + Y) = 0}$$。
一方、 $${V(X) = \frac{35}{12}}$$ で、 $${V(Y) = V(7 - X) = V(-X) = V(X) = \frac{35}{12}}$$(定数の足し算と符号反転は分散を変えない)。したがって
$$
V(X) + V(Y) = \frac{35}{12} + \frac{35}{12} = \frac{35}{6}.
$$
$${V(X + Y) = 0 \ne \frac{35}{6} = V(X) + V(Y)}$$ で、加法性は 明らかに破れている 。
ここでは $${X, Y}$$ が完全に従属( $${Y = 7 - X}$$ )で、共分散は
$$
\mathrm{Cov}(X, Y) = \mathrm{Cov}(X, 7 - X) = -V(X) = -\frac{35}{12}.
$$
これを公式 $${V(X+Y) = V(X) + V(Y) + 2\mathrm{Cov}(X, Y)}$$ に入れると
$$
V(X + Y) = \frac{35}{12} + \frac{35}{12} + 2\cdot \Bigl(-\frac{35}{12}\Bigr) = 0
$$
で整合します。
補足:独立より弱い条件
「無相関」とは $${\mathrm{Cov}(X, Y) = 0}$$、つまり $${E(XY) = E(X)E(Y)}$$ のことでした(記事7)。
- 独立 $${\Rightarrow}$$ 無相関(記事7で証明)
- 無相関 $${\Rightarrow}$$ 独立(一般には成り立たない、反例 $${Y = X^2}$$ )
積の公式 $${E(XY) = E(X)E(Y)}$$ も、分散の加法性 $${V(X+Y) = V(X) + V(Y)}$$ も、本当に必要なのは 無相関 までで、独立は 十分条件として強すぎる 場合があります。
ただし、入試で「無相関だが独立でない」設定が積極的に問われるケースは限られます。 独立性が言えれば両方とも成立する と覚えておけば、実用上は十分です。
練習問題
公正なコインを独立に $${n}$$ 回投げ、表が出た回数を $${X}$$ とする。 $${E(X)}$$ と $${V(X)}$$ を求めよ。
$${k}$$ 回目で表が出る事象を $${A_k}$$ とし、 $${I_k = I_{A_k}}$$。 $${X = \sum_{k=1}^{n} I_k}$$。
$${E(I_k) = P(A_k) = \frac{1}{2}}$$ で、線形性から $${E(X) = \frac{n}{2}}$$。
各 $${I_k}$$ の分散は $${V(I_k) = P(A_k)(1 - P(A_k)) = \frac{1}{2}\cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{4}}$$(指示関数の分散は $${p(1-p)}$$ の形)。各回が独立なので、加法性から
$$
V(X) = \sum_{k=1}^{n} V(I_k) = \frac{n}{4}.
$$
二項分布 $${X\sim B(n, \frac{1}{2})}$$ の期待値 $${\frac{n}{2}}$$、分散 $${\frac{n}{4}}$$ そのものです。
次に読む記事
次回は、 独立でない確率変数の積 で、 $${E(XY)\ne E(X)E(Y)}$$ となる典型例 $${Y = X^2}$$ を扱います。「値が決まれば $${Y}$$ が決まる」という強い従属関係で、積の公式がどう破れるかを具体的に確認します。
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