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【期待値マスター講座43】モンモール数の漸化式と確率1/eへの収束を理解する

    ゴウカライズ編集部
    7 June, 2026

    この記事では、「だれも自分のカードを受け取らない」並べ方の総数 ${D_n}$ について、漸化式 ${D_n = (n-1)(D_{n-1} + D_{n-2})}$ を立てます。

    第IV部・第V部のヒット問題の「ヒット0」のケースを正面から数える、組合せ論の古典題です。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    完全順列とは

    $${n}$$ 人がそれぞれ自分の名前を書いたカードを集めて、ランダムに1枚ずつ配り直すとき、 「全員が自分以外のカードを受け取る」並べ方完全順列 と呼びます。

    その総数を $${D_n}$$ と書きます。 $${D_n}$$ は モンモール数 とも呼ばれ、組合せ論で古典的な対象です。

    便宜上、 $${D_0 = 1}$$ と定義します。「0人の完全順列は1通り」と見る空配置の約束で、後の漸化式や級数表現で必要になる規約です。

    漸化式

    定理:$${n\ge 3}$$ で

    $$
    D_n = (n-1)(D_{n-1} + D_{n-2}).
    $$

    境界条件は $${D_1 = 0, D_2 = 1}$$。

    導出

    人 $${1}$$ がカード $${k\in{2, 3, \ldots, n}}$$ を受け取ったとする( $${n-1}$$ 通り)。このとき、

    ケース1:人 $${k}$$ がカード $${1}$$ を受け取る

    人1と人 $${k}$$ が「お互いのカードを交換した」状態。残りの $${n-2}$$ 人について、それぞれ自分のカードを受け取らないように配るパターンは $${D_{n-2}}$$ 通り。

    ケース2:人 $${k}$$ がカード $${1}$$ を受け取らない

    人 $${k}$$ にとってカード $${1}$$ が「自分以外のカード」の代わりになります。 $${k}$$ を「もとのカード $${1}$$ を受け取る役」と見立てると、人 $${2, 3, \ldots, n}$$ の $${n - 1}$$ 人で完全順列を作る話に帰着します。これは $${D_{n-1}}$$ 通り。

    合計

    $$
    D_n = (n - 1)(D_{n-1} + D_{n-2}).
    $$

    小さな $${n}$$ での値

    漸化式を使って計算します。

    • $${D_0 = 1}$$
    • $${D_1 = 0}$$
    • $${D_2 = 1}$$
    • $${D_3 = 2\cdot (D_2 + D_1) = 2\cdot (1 + 0) = 2}$$
    • $${D_4 = 3\cdot (D_3 + D_2) = 3\cdot 3 = 9}$$
    • $${D_5 = 4\cdot (D_4 + D_3) = 4\cdot 11 = 44}$$
    • $${D_6 = 5\cdot (D_5 + D_4) = 5\cdot 53 = 265}$$

    確認:$${n = 3}$$ で $${D_3 = 2}$$ は、 $${(2, 3, 1)}$$ と $${(3, 1, 2)}$$ の2通り(巡回的にずらした並び)。たしかに2通りで合っています。

    「だれも当たらない」確率

    カードの配り方は $${n!}$$ 通りで等確率。完全順列が $${D_n}$$ 通りなので、ヒットが0になる確率は

    $$
    P(X = 0) = \frac{D_n}{n!}.
    $$

    包除原理を経由すると

    $$
    \frac{D_n}{n!} = \sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^k}{k!}.
    $$

    $${n\to\infty}$$ では、これがマクローリン展開 $${e^{-1} = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{k!}}$$ に近づいて

    $$
    \frac{D_n}{n!}\to e^{-1}\approx 0.368.
    $$

    「 $${n}$$ が大きいとき、 だれも自分のカードを受け取らない確率は約37% 」というのは、感覚的にとらえやすい結論です。

    $${E(X) = 1}$$ と $${P(X = 0) \approx 0.368}$$ の両立

    シリーズ第V部の記事31で、ヒット数 $${X}$$ の期待値 $${E(X) = 1}$$ と分散 $${V(X) = 1}$$( $${n\ge 2}$$ )を出しました。一方、ここで見た $${P(X = 0) \approx 0.368}$$。

    「平均1人が自分のカードを受け取るのに、約37%の確率で0人」というのは、 分布が右に長い尾を持つ偏った形 をしていることを意味します。

    実際、 $${n}$$ が大きいとき $${X}$$ は近似的に 平均1のポアソン分布 に従います。ポアソン分布 $${\mathrm{Po}(1)}$$ では $${P(X = k) = \frac{e^{-1}}{k!}}$$ で、 $${k = 0}$$ で $${e^{-1}\approx 0.368}$$、 $${k = 1}$$ で同じく $${0.368}$$、 $${k = 2}$$ で $${0.184}$$、…という分布。 $${X = 0}$$ と $${X = 1}$$ が同程度に大きく、 $${X}$$ が大きい値はかなりまれ、という非対称な振る舞いです。

    漸化式が効いた理由

    ヒット数 $${X}$$ の 期待値 $${E(X) = 1}$$ は、指示関数 $${+}$$ 線形性で2行で出ました。 $${D_n}$$ そのものは、対象ごとの $${0/1}$$ 変数の和には書けないので、漸化式で順に計算する必要があります。

    「期待値は線形性」「個数は漸化式」という、 求めたいものに応じて道具を切り替える 必要が、この問題では顕著に出ています。

    練習問題

    5人のプレゼント交換で、だれも自分のプレゼントを受け取らない並べ方は何通りあるか。

    $${D_5 = 44}$$ 通り。全 $${5! = 120}$$ 通りのうちの $${\frac{44}{120}\approx 36.7}$$ % が「だれも当たらない」並べ方です。 $${e^{-1}\approx 0.368}$$ にすでに近い値であることに注目してください。 $${n = 5}$$ でも近似が十分よく効いている、というのが感覚的なメッセージです。

    補足:包除原理経由の式

    $${D_n}$$ の閉じた式は

    $$
    D_n = n!\sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^k}{k!}.
    $$

    包除原理から出ます。 $${A_i}$$ を「人 $${i}$$ が自分のカードを受け取る事象」とすると

    $$
    |\overline{A_1}\cap \cdots \cap \overline{A_n}| = n! - |A_1\cup \cdots\cup A_n|
    $$

    で、包除原理を展開すると

    $$
    |A_1\cup \cdots\cup A_n| = \sum_{k=1}^{n}(-1)^{k-1}\binom{n}{k}(n-k)!.
    $$

    $${\binom{n}{k}(n-k)! = \frac{n!}{k!}}$$ なので

    $$
    D_n = n! - \sum_{k=1}^{n}(-1)^{k-1}\frac{n!}{k!} = n!\sum_{k=0}^{n}\frac{(-1)^k}{k!}.
    $$

    漸化式と閉じた式の両方が知られているのが、モンモール数の特徴です。

    次に読む記事

    次回は、 コイン投げで初めて表が出るまでの回数 の期待値を、漸化式で扱います。記事42の導入で軽く触れた問題を、もう少し丁寧に整理します。

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