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【期待値マスター講座22】「個数の期待値=指示関数の和」を使いこなせ!(例題付き)

    ゴウカライズ編集部
    2 June, 2026

    この記事では、指示関数の最も基本的な使い方「条件を満たす対象の個数は、対象ごとの指示関数の和で書ける」を、定理として整理します。

    さいころを ${n}$ 回振って1の目が出る回数 ${X}$ を例に、二項分布の期待値 ${E = np}$ を2行で導いてみせます。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    中心になる定理

    事象の族 $${A_1, A_2, \ldots, A_n\subset \Omega}$$ に対して、 $${\omega\in\Omega}$$ が「 $${A_1, \ldots, A_n}$$ のうちいくつに含まれるか」をその試行結果のスコアとします。すなわち

    $$
    N(\omega) = #{i : \omega\in A_i}
    $$

    とおくと

    $$
    N = \sum_{i=1}^{n} I_{A_i}
    $$

    が成り立ちます。証明は短いです。 $${N(\omega)}$$ は「 $${\omega\in A_i}$$ となる $${i}$$ の個数」。和 $${\sum_i I_{A_i}(\omega)}$$ は、 $${i}$$ ごとに $${\omega\in A_i}$$ なら1を、そうでないなら0を足したものなので、両者は一致します。

    両辺の期待値を取れば、線形性と $${E(I_{A_i}) = P(A_i)}$$ から

    $$
    E(N) = \sum_{i=1}^{n} E(I_{A_i}) = \sum_{i=1}^{n} P(A_i).
    $$

    これが「個数の期待値 $${=}$$ 各事象の確率の和」という、 指示関数の最も基本的な応用 です。

    例題:さいころで1の目が出る回数

    さいころを $${n}$$ 回振り、1の目が出た回数を $${X}$$ とする。 $${E(X)}$$ を求めよ。

    $${k}$$ 回目のさいころが1の目を出すという事象を $${A_k}$$ とおきます。 $${X}$$ は「1の目が出た回数」なので

    $$
    X = \sum_{k=1}^{n} I_{A_k}.
    $$

    各 $${P(A_k) = \frac{1}{6}}$$ なので、線形性で

    $$
    E(X) = \sum_{k=1}^{n} P(A_k) = \frac{n}{6}.
    $$

    答えは $${E(X) = \frac{n}{6}}$$。

    二項分布の公式 $${E = np}$$ を2行で

    この問題は、 $${X}$$ が二項分布 $${B(n, \frac{1}{6})}$$ に従うときの期待値です。教科書の公式は $${E = np}$$ で、ここでは $${np = n\cdot \frac{1}{6} = \frac{n}{6}}$$ となり一致します。

    参考までに、定義通りに計算すると

    $$
    P(X = k) = \binom{n}{k}\Bigl(\frac{1}{6}\Bigr)^k\Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^{n-k}
    $$

    で、これに $${k}$$ を掛けて和を取るのが正攻法です。 $${k\binom{n}{k} = n\binom{n-1}{k-1}}$$ という変形を経由して

    $$
    E(X) = \sum_{k=0}^{n} k\cdot P(X = k) = n\cdot \frac{1}{6}\cdot \sum_{k=1}^{n}\binom{n-1}{k-1}\Bigl(\frac{1}{6}\Bigr)^{k-1}\Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^{n-k}
    $$

    …と二項定理を経由して $${\frac{n}{6}}$$ に到達します。一行で書けばそうですが、計算量はそれなりです。

    一方、指示関数の発想を使うと 「各回が1を出すか?」を見るだけで2行で終わり 、二項分布の特殊性すら使いません。

    $${A_k}$$ たちは独立だが、独立性は使わなかった

    この問題では、 $${n}$$ 回のさいころは独立な試行なので $${A_k}$$ たちも独立です。けれど、 $${E(X)}$$ の計算では独立性をどこにも使っていません

    仮に「2回目以降は1回目に依存する」ような細工をされたさいころで、それでも各回で1が出る確率が $${\frac{1}{6}}$$ なら、答えは同じ $${\frac{n}{6}}$$ になります。「二項分布の公式」と覚えるよりも、 「各回ごとに $${\frac{1}{6}}$$ で1が出る、それを $${n}$$ 回繰り返した期待回数」 と理解しておくほうが、応用が利きます。

    一般化:成功確率 $${p}$$ の試行を $${n}$$ 回

    定理の言い換えとして、次のような一般形を書いておきます。

    ある試行で事象 $${A}$$ が起こる確率が $${p}$$ とする。試行を $${n}$$ 回繰り返したとき、 $${A}$$ が起こった回数を $${X}$$ とする。 $${E(X) = np}$$ である。

    $${k}$$ 回目の試行で $${A}$$ が起こる事象を $${A_k}$$ とおけば、 $${X = \sum_k I_{A_k}}$$ で $${P(A_k) = p}$$、線形性で $${E(X) = np}$$。これが二項分布の期待値 $${E(X) = np}$$ の意味です。

    ここでも、 試行が独立かどうかは結論に影響しません 。「成功確率が常に $${p}$$」が満たされていれば、独立であろうと従属であろうと $${E(X) = np}$$ です。

    練習問題

    コインを公平に $${n}$$ 回独立に投げて、 $${k}$$ 回目と $${k+1}$$ 回目が異なる面(表と裏、裏と表)になる回数を $${X}$$ とする。 $${k}$$ は $${1, 2, \ldots, n-1}$$ の範囲。 $${E(X)}$$ を求めよ。

    $${k\in{1, 2, \ldots, n-1}}$$ について

    $$
    I_k = \begin{cases} 1 & (k \text{ 回目と } k+1 \text{ 回目が異なる面}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
    $$

    とおくと $${X = \sum_{k=1}^{n-1} I_k}$$。

    $${k}$$ 回目と $${k+1}$$ 回目が異なる確率は $${\frac{1}{2}}$$(表→裏か裏→表の2通り、全4通り)なので

    $$
    E(X) = (n-1)\cdot \frac{1}{2} = \frac{n-1}{2}.
    $$

    答えは $${\frac{n-1}{2}}$$。

    なお、ここで $${I_k}$$ と $${I_{k+1}}$$ は同じコインの結果( $${k+1}$$ 回目)を共有しているので、互いに独立ではありません。それでも線形性は何の問題もなく使え、答えが出ました。

    次に読む記事

    次回は、指示関数を使った有名な「ヒット問題」を扱います。 $${n}$$ 人がカードをランダムに配り直したときに「自分のカードを受け取った人」の人数の期待値が、 $${n}$$ によらず常に1になる、というモンモール問題の入口です。

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