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【期待値マスター講座23】モンモール問題も指示関数で攻略!!
この記事では、「ヒット問題」(モンモール問題に関連)を扱います。
${n}$ 枚のカードをランダムに並べ直したとき、「カード ${k}$ が左から ${k}$ 番目」というヒットの個数の期待値は、 ${n}$ に依らず常に1になります。
直観に反するこの結果が、指示関数で2行で出るところを見ます。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
設定
1から $${n}$$ までの番号がついたカード $${n}$$ 枚を、無作為に1列に並べる。カード $${k}$$ が左から $${k}$$ 番目にある事象を「ヒット」と呼ぶ。ヒットの個数を $${X}$$ とするとき、 $${E(X)}$$ を求めよ。
たとえば $${n = 4}$$ で並びが $${(2, 1, 3, 4)}$$ なら、カード3が3番目、カード4が4番目にあるのでヒットは2個。 $${(1, 2, 3, 4)}$$ なら全部ヒットで4個。 $${(2, 3, 4, 1)}$$ なら一つもヒットしないので0個。
$${X}$$ は0から $${n}$$ までの値をとります。直観的には、 $${n}$$ が大きいほどヒット数も多くなりそうな気がしますが、結論はそうではありません。
指示関数で分解
$${k\in{1, 2, \ldots, n}}$$ について「カード $${k}$$ が左から $${k}$$ 番目にある」事象を $${A_k}$$ とおきます。 $${X}$$ は
$$
X = \sum_{k=1}^{n} I_{A_k}
$$
と書けます。
$${P(A_k)}$$ は次のように出ます。 $${n!}$$ 通りの並び方のうち、カード $${k}$$ を $${k}$$ 番目に固定したものは $${(n-1)!}$$ 通り(残り $${n-1}$$ 枚を自由に並べる)。したがって
$$
P(A_k) = \frac{(n-1)!}{n!} = \frac{1}{n}.
$$
これは「特定のカードが特定の位置に来る確率」が $${\frac{1}{n}}$$ である、という対称性そのものです。
線形性から
$$
E(X) = \sum_{k=1}^{n} P(A_k) = \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{n} = 1.
$$
答えは $${n}$$ に依らず $${E(X) = 1}$$ 。
直観に反するけれど整合的
$${n}$$ が大きくなれば、ヒットする「席数」自体は増えます。一方、 各席でヒットする確率は $${\frac{1}{n}}$$ と薄まります 。両者は綺麗にキャンセルして、期待値はちょうど1のままで残ります。
具体的に小さな $${n}$$ で確かめると、
- $${n = 1}$$ :必ずカード1が1番目に来るので $${X = 1}$$、 $${E(X) = 1}$$
- $${n = 2}$$ :並びは $${(1,2)}$$(ヒット2)と $${(2,1)}$$(ヒット0)の2通り、 $${E(X) = \frac{2 + 0}{2} = 1}$$
- $${n = 3}$$ :6通りの並びで、ヒット数の合計を計算すると6。 $${E(X) = \frac{6}{6} = 1}$$
どの $${n}$$ でも1になります。
$${A_k}$$ たちは独立ではない
$${I_{A_1}, I_{A_2}, \ldots, I_{A_n}}$$ は互いに独立ではありません。たとえば「カード $${n}$$ が $${n}$$ 番目」と分かれば、残り $${n-1}$$ 枚の配置が制限されるので、他のヒットの確率がわずかに変わります。
それでも線形性は問題なく使えるので、答えは出ます。 「対象の数 $${n}$$ × 個別の確率 $${\frac{1}{n}}$$」がちょうど1で釣り合う 、というのが今回の現象の正体です。
モンモールの問題への入口
ヒットの個数が0になる、つまり「全員が自分以外のカードを受け取る」並びを 完全順列(撹乱順列、モンモール順列) と呼びます。完全順列の数は $${D_n}$$ と書き、漸化式 $${D_n = (n-1)(D_{n-1} + D_{n-2})}$$ で計算できます。詳しくは第IX部「漸化式編」で扱います。
ここで予告だけしておくと、 $${n}$$ が大きいときに「だれも自分のカードを受け取らない確率」は
$$
\frac{D_n}{n!} \to \frac{1}{e} \approx 0.368
$$
に収束します。「平均的に1人は自分のカードを受け取る」のと、「だれも受け取らない確率がおよそ $${\frac{1}{e}}$$」が両立しているのが、この問題の面白さです。
また、第V部の終盤で再びこの問題に戻り、 $${E(X^2)}$$ や分散の計算まで踏み込みます。 $${E(X) = 1}$$ と $${V(X) = 1}$$ が両方とも $${n}$$ に依らず一定、という驚きの結論にたどり着きます。
練習問題
$${n}$$ 人のグループでプレゼント交換をする。各人がプレゼントを1つ用意し、それらを集めて無作為に1つずつ配り直す。「自分のプレゼントを受け取った人」の人数を $${Y}$$ とする。 $${E(Y)}$$ を求めよ。
これは上の例題と全く同じ構造です。カードを「プレゼント」と読み替えただけです。 $${k}$$ 人目について
$$
I_k = \begin{cases} 1 & (k \text{ 人目が自分のプレゼントを受け取った}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
$$
とおくと、 $${P(I_k = 1) = \frac{1}{n}}$$ で、線形性から $${E(Y) = n\cdot \frac{1}{n} = 1}$$。
プレゼント交換会で「自分のものが当たる確率は嫌だなあ」と考えたとき、参加人数が増えれば確率は減るが、 参加人数 × 確率は1のまま 、というのがこの結論の社会的な読み方です。「自分のが当たる人は平均1人いる」と覚えておくと、感覚的に親しみやすいです。
次に読む記事
次回は、指示関数の応用としてもう一つの重要な公式 tail-sum formula を扱います。非負整数値の確率変数 $${X}$$ について、 $${E(X) = \sum_{k\ge 1} P(X\ge k)}$$ という分解です。シリーズ第1記事で京大2026年の問題を解いた道具がこれです。
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