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【期待値マスター講座21】"指示関数"の定義と「E(I_A)=P(A)と包除原理の関係」を理解する
この記事では、ここまで何度も使ってきた指示関数を、定義から積み上げ直します。
${E(I_A) = P(A)}$ という最も基本的な等式と、集合演算(共通部分・和集合・補集合)との対応を、後の応用で使えるように整理します。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
指示関数の定義
$${\Omega}$$ を標本空間とし、 $${A\subset\Omega}$$ を事象とします。 $${\Omega}$$ 上の関数
$$
\mathbf{1}_A(\omega) = \begin{cases} 1 & (\omega\in A) \\ 0 & (\omega\notin A) \end{cases}
$$
を、事象 $${A}$$ の 指示関数(特性関数) と呼びます。
これは「 $${A}$$ という事象が起きたかどうか」を $${0/1}$$ で表す確率変数です。 $${I_A}$$ や $${\chi_A}$$ と書く流儀もありますが、本シリーズでは $${\mathbf{1}_A}$$ または単に $${I_A}$$ と書きます。
定義は簡単ですが、確率の計算と相性がよく、特に「数えたい量を $${0/1}$$ の和に分解する」という見方の核になります。
最も基本的な等式 $${E(I_A) = P(A)}$$
指示関数の期待値は、その事象の確率に等しい、というのが第一の事実です。
定理:事象 $${A}$$ の指示関数 $${I_A}$$ について
$$
E(I_A) = P(A).
$$
証明はあっさり終わります。 $${I_A}$$ は $${{0, 1}}$$ をとる確率変数で
$$
P(I_A = 1) = P(A),\quad P(I_A = 0) = 1 - P(A)
$$
なので
$$
E(I_A) = 1\cdot P(A) + 0\cdot (1 - P(A)) = P(A).
$$
つまり 「指示関数の期待値 $${=}$$ その事象が起こる確率」 。この単純な事実が、後の応用すべての出発点になります。線形性で何個も足し合わせたあとは、結局「確率を足したもの」になる、という収まり方をします。
集合演算と噛み合う
指示関数は、集合論の演算ともきれいに対応します。
定理:事象 $${A, B\subset\Omega}$$ について
$$
I_{A\cap B} = I_A\cdot I_B
$$
$$
I_{A\cup B} = I_A + I_B - I_A\cdot I_B
$$
$$
I_{\overline{A}} = 1 - I_A
$$
が成り立ちます。ここで $${\overline{A}}$$ は $${A}$$ の補集合です。
それぞれの式を直観で確かめると次のようになります。
- $${I_{A\cap B} = I_A I_B}$$:「両方とも起きた」は「片方が起きた」と「もう片方が起きた」の積(両方とも1のときだけ積が1)
- $${I_{A\cup B} = I_A + I_B - I_A I_B}$$:「少なくとも片方が起きた」は包除原理そのもの
- $${I_{\overline{A}} = 1 - I_A}$$:「起きなかった」は1から「起きた」を引いたもの
証明は1点 $${\omega}$$ ごとに値が一致することを確かめれば終わりです。 $${\omega\in A\cap B \iff I_A(\omega)=1}$$ かつ $${I_B(\omega)=1}$$ で、それは $${I_A(\omega)I_B(\omega) = 1}$$ と同値。値が0の場合も同じく確認できます。
例題:集合演算から確率を引き出す
公正なさいころを1回振る。「偶数」を $${A = {2, 4, 6}}$$、「3の倍数」を $${B = {3, 6}}$$ とする。指示関数の関係 $${I_{A\cup B} = I_A + I_B - I_A I_B}$$ の両辺の期待値をとって、 $${P(A\cup B)}$$ を計算せよ。
両辺の期待値を取ると
$$
E(I_{A\cup B}) = E(I_A) + E(I_B) - E(I_A I_B).
$$
ここで $${E(I_X) = P(X)}$$ と、 $${I_A I_B = I_{A\cap B}}$$ から $${E(I_A I_B) = P(A\cap B)}$$ なので
$$
P(A\cup B) = P(A) + P(B) - P(A\cap B).
$$
これは集合の和の確率の 包除原理 そのものです。値を入れると $${P(A) = \frac{1}{2}}$$、 $${P(B) = \frac{1}{3}}$$、 $${P(A\cap B) = P({6}) = \frac{1}{6}}$$ なので
$$
P(A\cup B) = \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{6} = \frac{3 + 2 - 1}{6} = \frac{4}{6} = \frac{2}{3}.
$$
直接 $${A\cup B = {2, 3, 4, 6}}$$ から $${P(A\cup B) = \frac{4}{6} = \frac{2}{3}}$$ と確かめても同じ値です。
ここで示したのは、 包除原理は指示関数の代数操作から自然に出る ということです。 $${n}$$ 個の集合の和に拡張すると、 $${I_{A_1\cup\cdots\cup A_n}}$$ を $${I_{A_1}, \ldots, I_{A_n}}$$ で展開する形になり、それぞれの期待値を取ると一般の包除原理が出ます。
$${I_A^2 = I_A}$$ という性質
指示関数は $${0}$$ か $${1}$$ しかとらないので、二乗しても値は変わりません。
$$
I_A^2 = I_A.
$$
これは $${0^2 = 0}$$、 $${1^2 = 1}$$ から明らかですが、後の応用で「 $${E(I_A^2) = E(I_A) = P(A)}$$」のように、計算を一段省ける場面が出てきます。たとえば指示関数の和の二乗を展開するときに、対角成分( $${i = j}$$ の項)が綺麗に処理できる、というはたらきをします。
これは第V部のモンモール問題で実際に使います。
練習問題
確率変数 $${I_A, I_B}$$ が事象 $${A, B}$$ の指示関数で、 $${P(A) = 0.4}$$、 $${P(B) = 0.5}$$、 $${P(A\cap B) = 0.2}$$ とする。次を求めよ。
(a) $${E(I_A)}$$、$${E(I_B)}$$、$${E(I_A I_B)}$$
(b) $${E(I_A + I_B - I_A I_B)}$$
(c) $${P(A\cup B)}$$
(d) $${P(A)\cdot P(B)}$$ と $${P(A\cap B)}$$ は一致するか。 $${A, B}$$ は独立か。
(a) $${E(I_A) = P(A) = 0.4}$$、$${E(I_B) = P(B) = 0.5}$$、$${E(I_A I_B) = P(A\cap B) = 0.2}$$。
(b) 線形性から $${E(I_A + I_B - I_A I_B) = 0.4 + 0.5 - 0.2 = 0.7}$$。
(c) (b) で計算したのは $${E(I_{A\cup B}) = P(A\cup B)}$$ そのものなので $${P(A\cup B) = 0.7}$$。
(d) $${P(A)\cdot P(B) = 0.4\cdot 0.5 = 0.2 = P(A\cap B)}$$ で一致するので、 $${A}$$ と $${B}$$ は 独立 です。
(b) で線形性 + $${E(I_X) = P(X)}$$ を使ったところは、まさに指示関数と期待値の組合せが力を発揮した場面です。 集合の包除原理が、指示関数を経由すると線形性そのものに見える という、見方の変化が起こっています。
次に読む記事
次回は、指示関数の使い方の中心的な定理「個数 $${=}$$ 指示関数の和」を整理します。これは第IV部の主役で、シリーズ後半すべての応用の入口になります。
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