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【母関数マスター講座 第9回】負の二項定理〜重複組合せの本当の姿〜

    ゴウカライズ編集部
    6 April, 2026

    前回(第8回)は、等比級数の公式で冪級数を分数式に圧縮する方法を学びました。

    今回は、その圧縮された分数式 $${\frac{1}{(1-t)^n}}$$ を「展開」する公式を手に入れます。二項定理の指数を「負の整数」に拡張するこの公式が、第4回で天下り的に使った重複組合せの正体を暴きます。ここでも、 $${t}$$ を形式的不定元として扱い、等式は形式的冪級数の恒等式として読みます。

    母関数マスター講座の全体像、シラバスは以下の記事でご覧ください。

    https://note.com/goukalize/n/ne5f45c351ab2

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    1. 二項定理を振り返る

    第1回で登場した二項定理をもう一度見てみましょう。

    $$
    \begin{aligned}
    (1+x)^n = \sum_{k=0}^n {}_n\mathrm{C}_k , x^k \tag{①}
    \end{aligned}
    $$

    ①の指数 $${n}$$ は正の整数でした。ここで、 $${n}$$ の代わりに $${-n}$$ (負の整数)を入れたらどうなるでしょうか。

    2. 指数をマイナスにする

    $${(1+x)^{-n} = \frac{1}{(1+x)^n}}$$ です。母関数で扱いやすいように $${x}$$ を $${-t}$$ に置き換えて $${\frac{1}{(1-t)^n}}$$ の展開を考えます。

    結論から書くと、次の公式が成り立ちます。

    $$
    \begin{aligned}
    \frac{1}{(1-t)^n} = \sum_{k=0}^{\infty} {}_{n+k-1}\mathrm{C}_k , t^k \tag{②}
    \end{aligned}
    $$

    ②が「負の二項定理」と呼ばれる公式です。右辺の係数 $${{}_{n+k-1}\mathrm{C}_k}$$ は、まさに重複組合せ $${{}_n\mathrm{H}_k}$$ そのものです。

    3. なぜこの係数になるのか

    ②を直感的に理解するために、 $${n = 2}$$ の場合を手計算で確認してみましょう。

    $$
    \begin{aligned}
    \frac{1}{(1-t)^2} &= \left( \frac{1}{1-t} \right)^2 \\
    &= (1 + t + t^2 + \cdots)^2 \tag{③}
    \end{aligned}
    $$

    ③の右辺は「2つの冪級数の掛け算」です。 $${t^k}$$ の項は、左のカッコから $${t^a}$$ 、右のカッコから $${t^b}$$ を選んで $${a + b = k}$$ となるすべての組み合わせから作られます。 $${a + b = k}$$ を満たす負でない整数 $${(a, b)}$$ の組の数は $${k + 1}$$ 通りです。

    実際に $${{}_{2+k-1}\mathrm{C}k = {}{k+1}\mathrm{C}_k = k + 1}$$ となり、②の公式と一致します。

    4. 重複組合せとの合流

    第4回で学んだ「 $${n}$$ 変数の和が $${k}$$ になる負でない整数解の個数」は $${{}_n\mathrm{H}k = {}{n+k-1}\mathrm{C}k}$$ でした。一方、②の公式は $${\frac{1}{(1-t)^n}}$$ の $${t^k}$$ の係数がまさに $${{}{n+k-1}\mathrm{C}_k}$$ であると言っています。

    つまり、重複組合せの公式は「負の二項定理」の特殊な場合だったのです。

    $$
    \begin{aligned}
    (1 + t + t^2 + \cdots)^n = \frac{1}{(1-t)^n} = \sum_{k=0}^{\infty} {}_n\mathrm{H}_k , t^k \tag{④}
    \end{aligned}
    $$

    ④は、第4回の母関数と第8回の等比級数圧縮、そして今回の負の二項定理の3つが合流する式です。ここに来て、第1部から積み上げてきたすべてが1本の線でつながりました。

    まとめ

    負の二項定理は、 $${\frac{1}{(1-t)^n}}$$ の展開公式であり、その係数が重複組合せ $${{}_n\mathrm{H}_k}$$ に一致するという事実を与えてくれます。母関数を等比級数で圧縮し、負の二項定理で展開する。この流れが、場合の数の問題を閉じた形で解くための基本パターンです。

    次回、第10回からは、母関数に「微分」を施すことで、確率の期待値を一瞬で求める離れ業を紹介します。


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