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【母関数マスター講座 第10回】「微分」がもたらす魔法〜確率の期待値を一瞬で出す〜
前回(第9回)は、負の二項定理によって $${\frac{1}{(1-t)^n}}$$ の係数が重複組合せに一致することを学びました。
今回は、母関数に「微分」を施すという全く新しい操作を紹介します。たった1回の微分と代入で、確率分布の期待値が一瞬で計算できてしまいます。
母関数マスター講座の全体像、シラバスは以下の記事でご覧ください。
https://note.com/goukalize/n/ne5f45c351ab2
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1. 微分すると次数が「降りてくる」
母関数 $${f(x) = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + a_3 x^3 + \cdots}$$ を $${x}$$ で微分してみましょう。
$$
\begin{aligned}
f'(x) = a_1 + 2a_2 x + 3a_3 x^2 + \cdots \tag{①}
\end{aligned}
$$
①を見ると、微分によって各項の次数 $${k}$$ が係数の前に「掛け算として降りてきた」ことがわかります。元の係数 $${a_k}$$ に $${k}$$ が掛かった形です。
2. 微分して x=1 を代入すると何が出るか
①に $${x = 1}$$ を代入すると、
$$
\begin{aligned}
f'(1) = a_1 + 2a_2 + 3a_3 + \cdots = \sum_{k=0}^{n} k a_k \tag{②}
\end{aligned}
$$
②は「各係数に次数 $${k}$$ を掛けたものの総和」です。
ここで、 $${X}$$ が非負整数値をとる確率変数で期待値が有限のとき、確率母関数 $${G_X(x) = \sum_{k=0}^{\infty} P(X=k) x^k}$$ を定義できます。係数 $${a_k = P(X=k)}$$ なので、②の値はまさに期待値 $${E[X]}$$ そのものです。
$$
\begin{aligned}
E[X] = \sum_{k} k \cdot P(X = k) = G_X'(1) \tag{③}
\end{aligned}
$$
③が今回の核心です。確率母関数を微分して $${x = 1}$$ を代入する。非負整数値の分布であれば、どんな形でもこの手順で期待値が出ます。
3. コイントスの期待値を一瞬で求める
$${n}$$ 枚のコインを投げたとき、表が出る枚数 $${X}$$ の期待値を求めてみましょう。
1枚のコインの確率母関数は $${\frac{1}{2}(1 + x)}$$ (裏なら $${1}$$ 、表なら $${x}$$ 、各確率 $${\frac{1}{2}}$$ )なので、 $${n}$$ 枚分の確率母関数は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
f(x) = \left( \frac{1+x}{2} \right)^n \tag{④}
\end{aligned}
$$
④を $${x}$$ で微分します。
$$
\begin{aligned}
f'(x) = n \cdot \frac{1}{2} \cdot \left( \frac{1+x}{2} \right)^{n-1} \tag{⑤}
\end{aligned}
$$
⑤に $${x = 1}$$ を代入すると、
$$
\begin{aligned}
f'(1) &= n \cdot \frac{1}{2} \cdot \left( \frac{2}{2} \right)^{n-1} \\
&= n \cdot \frac{1}{2} \cdot 1 \\
&= \frac{n}{2} \tag{⑥}
\end{aligned}
$$
⑥より、 $${E[X] = \frac{n}{2}}$$ が微分1回と代入だけで導かれました。「 $${n}$$ 枚のうち半分が表」というのは直感どおりですが、母関数を使えばどんな複雑な確率分布でも同じ手順で期待値が出せます。
4. サイコロ2個の目の和の期待値
もう一例見ておきます。サイコロ1個の確率母関数は、
$$
\begin{aligned}
g(x) = \frac{1}{6}(x + x^2 + x^3 + x^4 + x^5 + x^6) = \frac{x(1-x^6)}{6(1-x)} \tag{⑦}
\end{aligned}
$$
2個振ったときの確率母関数は $${g(x)^2}$$ です。 $${(g^2)'(x) = 2g(x)g'(x)}$$ に $${x = 1}$$ を代入すると、 $${g(1) = 1}$$ (確率の総和)ですから、
$$
\begin{aligned}
(g^2)'(1) = 2g(1)g'(1) = 2g'(1) \tag{⑧}
\end{aligned}
$$
あとは1個分の $${g'(1)}$$ を計算します。
$$
\begin{aligned}
g'(x) = \frac{1}{6}(1 + 2x + 3x^2 + 4x^3 + 5x^4 + 6x^5) \tag{⑨}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
g'(1) = \frac{1}{6}(1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6) = \frac{21}{6} = \frac{7}{2} \tag{⑩}
\end{aligned}
$$
⑧より、サイコロ2個の目の和の期待値は $${2 \times \frac{7}{2} = 7}$$ です。確率母関数を使えば「合成した確率変数の期待値」も、個別の導関数の値だけで計算できます。
まとめ
非負整数値をとる確率変数の確率母関数 $${G_X(x)}$$ を微分して $${x = 1}$$ を代入すれば、期待値が一発で出ます。展開してから $${k}$$ を掛けて足し合わせるという手間が、微分というたった1つの操作に集約されるのです。
次回、第11回ではもう一度微分して「分散」を求めます。期待値と分散という確率の二大指標が、母関数の微分だけで完全にシステマチックに処理できることを確認しましょう。
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