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【期待値マスター講座51】慶應医2025(期待値) Y=2^X の変換で期待値と分散を出す

    ゴウカライズ編集部
    9 June, 2026

    この記事では、慶應義塾大学2025年度医学部第2問を扱います。袋から玉を取り出す試行で、赤玉は戻すが白玉は戻さない、という 後戻りしない遷移 の問題です。

    状態確率の漸化式を順に解き、得点 ${X_n}$ を ${Y_n = 2^{X_n}}$ に変換することで期待値・分散を計算する技を見ます。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    問題

    袋が1つ、赤玉3個、白玉3個が用意されている。赤玉が少なくとも1個袋に入った状態に対して、操作 $${T}$$ の手順を以下のように定める。

    操作 $${T}$$:袋から玉を1個無作為に取り出し、それが赤玉であれば袋に戻し、白玉であれば袋に戻さない。

    $${n}$$ を自然数とする。
    (1) 赤玉3個と白玉3個が袋に入った状態から始めて、操作 $${T}$$ を $${n}$$ 回施し終えたとき、袋の中に入っている白玉の個数が3個である確率を $${a_n}$$、2個である確率を $${b_n}$$、1個である確率を $${c_n}$$ とする。 $${a_{n+1}, b_{n+1}, c_{n+1}}$$ を $${a_n, b_n, c_n}$$ を用いて表す漸化式を立て、さらに $${a_n, b_n, c_n}$$ をそれぞれ $${n}$$ の式で表せ。
    (2) ゲーム $${T}$$ を「操作 $${T}$$ を1回施し、その結果、白玉が3個袋に入っている場合に限り1点を得る」と定める。赤玉3個と白玉3個から始めて、ゲーム $${T}$$ を $${n}$$ 回行ったとき、得た点の合計を $${X_n}$$ とし、 $${Y_n = 2^{X_n}}$$ と定める。 $${Y_n}$$ の期待値と分散を求めよ。

    状態と遷移

    赤玉数は操作 $${T}$$ で変わりません(赤は戻す、白は戻さない)。常に 赤3個 。袋の状態は 白玉の数 だけで決まります。

    しかも、白を引かない限り状態は不変、白を引けば白玉数が1減る。つまり 後戻りしない 遷移です。

    状態 $${S_k}$$ = 「白玉が $${k}$$ 個ある」、 $${k = 0, 1, 2, 3}$$。合計玉数は $${3 + k}$$。状態 $${S_k}$$ で次の操作 $${T}$$ を施したときの遷移は

    • $${S_k \to S_k}$$(赤を引く):確率 $${\frac{3}{3+k}}$$
    • $${S_k \to S_{k-1}}$$(白を引く):確率 $${\frac{k}{3+k}}$$

    (1) 漸化式と解

    $${a_n = P(S_3), b_n = P(S_2), c_n = P(S_1)}$$ とすると

    • $${S_3}$$ に留まる確率:$${\frac{3}{6} = \frac{1}{2}}$$
    • $${S_2}$$ に留まる確率:$${\frac{3}{5}}$$、 $${S_3}$$ から $${S_2}$$ へ:$${\frac{3}{6} = \frac{1}{2}}$$
    • $${S_1}$$ に留まる確率:$${\frac{3}{4}}$$、 $${S_2}$$ から $${S_1}$$ へ:$${\frac{2}{5}}$$

    漸化式:

    $$
    \begin{aligned}
    a_{n+1} &= \frac{1}{2}a_n, \\
    b_{n+1} &= \frac{1}{2}a_n + \frac{3}{5}b_n, \\
    c_{n+1} &= \frac{2}{5}b_n + \frac{3}{4}c_n.
    \end{aligned}
    $$

    初期:$${a_0 = 1, b_0 = c_0 = 0}$$。

    $${a_n}$$ を解く :$${a_{n+1} = \frac{1}{2}a_n}$$、 $${a_0 = 1}$$ から

    $$
    a_n = \Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^n.
    $$

    $${b_n}$$ を解く :$${b_{n+1} = \frac{3}{5}b_n + \frac{1}{2}\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$。特殊解を $${A\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$ とおいて代入すると $${\frac{A}{2} = \frac{3A}{5} + \frac{1}{2}}$$ から $${A = -5}$$。一般解は $${b_n = C\bigl(\frac{3}{5}\bigr)^n - 5\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$ で $${b_0 = 0}$$ から $${C = 5}$$。

    $$
    b_n = 5\left[\Bigl(\frac{3}{5}\Bigr)^n - \Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^n\right].
    $$

    $${c_n}$$ を解く :$${c_{n+1} = \frac{3}{4}c_n + 2\left[\bigl(\frac{3}{5}\bigr)^n - \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n\right]}$$。特殊解を $${A\bigl(\frac{3}{5}\bigr)^n + B\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$ として代入すると $${A = -\frac{40}{3}, B = 8}$$。一般解 $${c_n = D\bigl(\frac{3}{4}\bigr)^n - \frac{40}{3}\bigl(\frac{3}{5}\bigr)^n + 8\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$、 $${c_0 = 0}$$ から $${D = \frac{16}{3}}$$。

    $$
    c_n = \frac{16}{3}\Bigl(\frac{3}{4}\Bigr)^n - \frac{40}{3}\Bigl(\frac{3}{5}\Bigr)^n + 8\Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^n.
    $$

    下三角の漸化式(後戻りしない遷移)なので、 $${a_n, b_n, c_n}$$ の順に独立に解けるのが特徴です。

    (2) $${Y_n = 2^{X_n}}$$ の期待値と分散

    ゲーム $${T}$$ で1点を得るのは「操作の結果、白玉が3個」のとき。これは 状態 $${S_3}$$ で赤を引く とき。

    ここで重要な観察:いったん白を引いて $${S_2}$$ 以下に移ると、もう $${S_3}$$ には戻れない。 後戻りしない遷移 だからです。

    したがって、 $${X_n}$$ は 「最初の白を引くまでに赤を引いた連続回数」 (最大 $${n}$$ )で

    $$
    P(X_n = k) =
    \begin{cases}
    \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^{k+1} & (0\le k\le n-1) \\
    \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n & (k = n).
    \end{cases}
    $$

    • $${0\le k\le n - 1}$$:「最初の $${k}$$ 回が赤、 $${k+1}$$ 回目が白」、確率 $${\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^k\cdot \frac{3}{6} = \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^{k+1}}$$
    • $${k = n}$$:「 $${n}$$ 回すべて赤」、確率 $${\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$

    $${Y_n = 2^{X_n}}$$ の期待値

    $$
    \begin{aligned}
    E(Y_n)
    &= \sum_{k=0}^{n-1} 2^k\cdot \Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^{k+1} + 2^n\cdot \Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^n \\
    &= \sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{2} + 1 \\
    &= \frac{n}{2} + 1 = \frac{n + 2}{2}.
    \end{aligned}
    $$

    $${Y_n^2 = 4^{X_n}}$$ の期待値

    $$
    \begin{aligned}
    E(Y_n^2)
    &= \sum_{k=0}^{n-1} 4^k\cdot \Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^{k+1} + 4^n\cdot \Bigl(\frac{1}{2}\Bigr)^n \\
    &= \frac{1}{2}\sum_{k=0}^{n-1} 2^k + 2^n \\
    &= \frac{1}{2}(2^n - 1) + 2^n \\
    &= \frac{3\cdot 2^n - 1}{2}.
    \end{aligned}
    $$

    分散

    $$
    V(Y_n) = E(Y_n^2) - E(Y_n)^2 = \frac{3\cdot 2^n - 1}{2} - \frac{(n+2)^2}{4} = \frac{6\cdot 2^n - 2 - (n+2)^2}{4} = \frac{6\cdot 2^n - (n+2)^2 - 2}{4}.
    $$

    $${Y_n = 2^{X_n}}$$ という変換の意味

    $${X_n}$$ そのものは「最大 $${n}$$ の切断つき幾何分布」で扱いにくいです。ところが $${Y_n = 2^{X_n}}$$ にすると、 各「1点を得る」が「現在の $${Y}$$ を2倍にする」 に対応します。

    $${Y_n}$$ の各項に $${2^k\cdot \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^{k+1} = \frac{1}{2}}$$ と打ち消し合いが起き、和が綺麗な形になります。これは指数とその逆数の絶妙な組合せが効いている、慶應らしい巧妙な設計です。

    「特定の確率変数に変換すると、計算が綺麗になる」というのは、確率論で繰り返し見るパターンです。

    $${E(Y_n)}$$ と $${V(Y_n)}$$ の数値

    具体的に小さな $${n}$$ で計算します。

    • $${n = 1}$$:$${E(Y_1) = \frac{3}{2}}$$、$${V(Y_1) = \frac{6\cdot 2 - 9 - 2}{4} = \frac{1}{4}}$$
    • $${n = 2}$$:$${E(Y_2) = 2}$$、$${V(Y_2) = \frac{24 - 16 - 2}{4} = \frac{6}{4} = \frac{3}{2}}$$
    • $${n = 3}$$:$${E(Y_3) = \frac{5}{2}}$$、$${V(Y_3) = \frac{48 - 25 - 2}{4} = \frac{21}{4}}$$
    • $${n = 4}$$:$${E(Y_4) = 3}$$、$${V(Y_4) = \frac{96 - 36 - 2}{4} = \frac{58}{4} = \frac{29}{2}}$$

    $${E(Y_n)}$$ は $${n}$$ に対して 線形 ですが、 $${V(Y_n)}$$ は $${6\cdot 2^n}$$ の項が支配的で 指数的に大きく なります。

    これは「ほとんどの試行では早く白が出て $${Y_n}$$ は小さい( $${0, 1, 2, 4}$$ など)が、まれに長く赤が続いて $${Y_n}$$ が爆発的に大きい値( $${2^n}$$ )をとる」という、 ロングテール分布 の特徴です。

    練習問題

    $${E(Y_n) - E(Y_{n-1}) = \frac{1}{2}}$$ を確認せよ。

    $${E(Y_n) = \frac{n+2}{2}}$$ なので

    $$
    E(Y_n) - E(Y_{n-1}) = \frac{n+2}{2} - \frac{n+1}{2} = \frac{1}{2}.
    $$

    「1回ゲームを追加するごとに、期待値が $${\frac{1}{2}}$$ ずつ増える」 ── これは $${Y_n}$$ の階差が一定で、 線形な期待値増加 が起きていることを意味します。

    直観的な解釈は、 $${n}$$ 回目で $${X_n = n}$$ となる確率が $${\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$、そのときの $${Y_n = 2^n}$$ なので、 $${1\cdot \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n = \bigl(\frac{1}{2}\bigr)^n}$$ という寄与…ではないですが、計算を追うと階差がちょうど $${\frac{1}{2}}$$ になります。これが慶應医2025の見どころです。

    次に読む記事

    次回は、シリーズ第1記事で扱った 京大2026年(前期文系第5問・理系第6問共通問題) に戻ります。シリーズの集大成として、答案として書くべき形を改めて整理します。

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