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【期待値マスター講座50】一橋大2012(数学)で「3つの対」に集約する鮮やかな解法を学ぶ
この記事では、一橋大学2012年度(前期)第5問を扱います。
さいころの置き直しの問題で、 「向かい合う面の和が7」という性質を、3つの対 ${{1, 6}, {2, 5}, {3, 4}}$ に集約する という見方で、6状態の漸化式を3状態に圧縮します。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
問題
最初に $${1}$$ の目が上面にあるようにサイコロが置かれている。その後、 $${4}$$ つの側面から $${1}$$ つの面を無作為に選び、その面が上面になるように置き直す操作を $${n}$$ 回繰り返す。なお、サイコロの向かい合う面の目の和は $${7}$$ である。
(1) 最後に $${1}$$ の目が上面にある確率を求めよ。
(2) 最後に上面にある目の数の期待値を求めよ。
「上面の目を置き直す」操作を $${n}$$ 回繰り返したとき、最終的な上面の状態を考える問題。素直に6状態の漸化式を立てると煩雑なので、 「対」にまとめる 対称性が鍵です。
3対への集約
向かい合う面の目の和は7。上面が $${f}$$ のときは下面が $${7 - f}$$ で、 $${4}$$ つの側面は残りの4つの目。これらを3対
$$
A = {1, 6},\quad B = {2, 5},\quad C = {3, 4}
$$
にまとめます。
どの目が上面でも、操作で次に上面に来うるのは「自分が属する対以外の2対の合計4数」で、それぞれ等確率 $${\frac{1}{4}}$$。すなわち、各状態から、他の2状態にそれぞれ確率 $${\frac{2}{4} = \frac{1}{2}}$$ ずつ移り、 自分自身の対には戻らない という遷移になります。
これで、6面ある状態が 3対の状態 に圧縮されました。 $${A, B, C}$$ の3状態のマルコフ連鎖です。
状態確率の漸化式
$${n}$$ 回後に状態 $${A, B, C}$$ にある確率をそれぞれ $${\alpha_n, \beta_n, \gamma_n}$$ とおきます。初期は上面 $${1\in A}$$ なので $${\alpha_0 = 1}$$、 $${\beta_0 = \gamma_0 = 0}$$。
確率の総和 $${\alpha_n + \beta_n + \gamma_n = 1}$$ が常に成り立つので
$$
\alpha_{n+1} = \frac{1}{2}\beta_n + \frac{1}{2}\gamma_n = \frac{1}{2}(1 - \alpha_n).
$$
「次に状態 $${A}$$ に行くには、いま $${B}$$ か $${C}$$ にいる必要があり、そこから $${\frac{1}{2}}$$ で $${A}$$ に遷移」という関係です。
整理すると
$$
\alpha_{n+1} - \frac{1}{3} = -\frac{1}{2}\Bigl(\alpha_n - \frac{1}{3}\Bigr).
$$
これは公比 $${-\frac{1}{2}}$$ の等比数列で
$$
\alpha_n - \frac{1}{3} = \Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^n\Bigl(\alpha_0 - \frac{1}{3}\Bigr) = \frac{2}{3}\Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^n.
$$
したがって
$$
\alpha_n = \frac{1}{3} + \frac{2}{3}\Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^n.
$$
同様に $${\beta_n = \gamma_n}$$(対称性、 $${\beta_0 = \gamma_0 = 0}$$ から始まる)で
$$
\beta_n = \gamma_n = \frac{1}{3} - \frac{1}{3}\Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^n\quad (n\ge 0).
$$
(1) 最後に1が上面にある確率
$${n\ge 1}$$ では、状態 $${A}$$ に到達するときは必ず別の対( $${B}$$ または $${C}$$)から $${\frac{1}{4}}$$ ずつで遷移するため、 $${A}$$ 内では $${1}$$ と $${6}$$ が 等確率 です。 $${P(\text{上面} = 1\mid A) = \frac{1}{2}}$$。
したがって
$$
P(\text{上面} = 1) = \frac{1}{2}\alpha_n = \frac{1}{6} + \frac{1}{3}\Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^n\quad (n\ge 1).
$$
$${n = 1}$$ では、もとの $${1}$$ の対 $${A = {1, 6}}$$ には戻れないので $${P = 0}$$。
$${n\to\infty}$$ では $${P\to \frac{1}{6}}$$(一様分布に近づく)、というのも自然な極限です。
なお、 $${n = 0}$$ では最初から $${1}$$ が上面なので $${P(\text{上面} = 1) = 1}$$ ですが、これは上の式に $${n = 0}$$ を入れた $${\frac{1}{6} + \frac{1}{3} = \frac{1}{2}}$$ とは一致しません。これは、 $${n\ge 1}$$ では対内で2目が等確率 という条件を使っているからで、 $${n = 0}$$ は別扱いです。 公式は $${n\ge 1}$$ で適用 することを忘れずに。
(2) 上面の目の期待値
$${n\ge 1}$$ で各対の中の2目は等確率なので、上面の目の期待値は
$$
\begin{aligned}
E_n
&= \frac{1+6}{2}\alpha_n + \frac{2+5}{2}\beta_n + \frac{3+4}{2}\gamma_n \\
&= \frac{7}{2}(\alpha_n + \beta_n + \gamma_n) \\
&= \frac{7}{2}.
\end{aligned}
$$
なんと、 $${n\ge 1}$$ で常に $${\frac{7}{2}}$$。
「各対の和が7」というのと、「対内で2目が等確率」が組み合わさって、 $${n}$$ がいくらであっても期待値は $${\frac{7}{2}}$$ になる、というのが見どころです。
$${\frac{7}{2}}$$ になる理由
期待値の計算を読み直すと、 対の選び方 $${\alpha_n, \beta_n, \gamma_n}$$ には依存せず、 各対の内側の平均 $${\frac{7}{2}}$$ だけが残ります。
なぜか。対 $${A = {1, 6}}$$ の中で2目が等確率なら平均は $${\frac{7}{2}}$$、対 $${B = {2, 5}}$$ でも平均は $${\frac{7}{2}}$$、対 $${C = {3, 4}}$$ も同じ。 どの対にいても、対内の期待値は $${\frac{7}{2}}$$ で、加重平均しても $${\frac{7}{2}}$$ のまま、というカラクリです。
これは、 「向かい合う面の和が7」 というさいころの性質を巧みに使った美しい結果です。
3対への集約という見方
この問題で本質だったのは、 「6状態を3状態に圧縮する」 対称性の見立てです。
操作の制約「上面と下面以外から選ぶ」は、 「自分の対以外の対へ移る」 と同値。遷移の構造が対の言葉で対称になるため、6状態の漸化式を3状態に圧縮できました。
仮に対への集約を見落として6状態のまま漸化式を立てると、状態数が倍になり計算が4倍程度に膨らみます。 問題の対称性を活用すると計算量が劇的に減る 、というのは数学全般の重要な戦略です。
練習問題
同じ設定で、 $${n = 3}$$ の場合の $${\alpha_3, \beta_3, \gamma_3}$$ を求めよ。
公式から
$$
\alpha_3 = \frac{1}{3} + \frac{2}{3}\Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^3 = \frac{1}{3} - \frac{1}{12} = \frac{4 - 1}{12} = \frac{3}{12} = \frac{1}{4}.
$$
$$
\beta_3 = \gamma_3 = \frac{1}{3} - \frac{1}{3}\Bigl(-\frac{1}{2}\Bigr)^3 = \frac{1}{3} + \frac{1}{24} = \frac{8 + 1}{24} = \frac{9}{24} = \frac{3}{8}.
$$
確認:$${\frac{1}{4} + \frac{3}{8} + \frac{3}{8} = \frac{2 + 3 + 3}{8} = 1}$$ で総和1。3回目には対 $${A}$$ にいる確率はやや低く(最初の対なので戻りにくい)、 $${B, C}$$ に等しく振り分けられる、というのが分かります。
次に読む記事
次回は、慶應義塾大学2025年度医学部第2問を扱います。袋から玉を取り出す試行で、赤玉は戻すが白玉は戻さない、という 後戻りしない遷移 の問題。状態確率の漸化式を順に解き、 $${Y_n = 2^{X_n}}$$ という巧妙な変換で期待値・分散を出すところがハイライトです。
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