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【期待値マスター講座28】tail-sumでさいころ2回の最大値を求める
この記事では、tail-sum formula の最初の実戦として、さいころを2回振ったときの最大値 ${M}$ の期待値を、 ${E(M) = \sum_k P(M\ge k)}$ から計算します。
${P(M = k)}$ を直接出す道と比べて、ぐっと見通しが良くなることを確認します。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
問題
さいころを2回振り、出た目の最大値を $${M}$$ とする。 $${E(M)}$$ を求めよ。
$${M}$$ は $${1}$$ から $${6}$$ の値をとります。 $${P(M = k)}$$ を直接出す道は、第I部の練習問題で計算しました。 $${P(M\le k) = \bigl(\frac{k}{6}\bigr)^2}$$ から差分を取って $${P(M = k) = \frac{k^2 - (k-1)^2}{36} = \frac{2k - 1}{36}}$$ で
$$
E(M) = \sum_{k=1}^{6} k\cdot \frac{2k - 1}{36} = \frac{161}{36}.
$$
これでも答えは出ますが、tail-sum を使うとさらに見通しがよくなります。
tail-sumで解く
$${M\ge k}$$ となるのは「少なくとも一方の目が $${k}$$ 以上」のとき。余事象は「両方とも $${k-1}$$ 以下」で確率 $${\bigl(\frac{k-1}{6}\bigr)^2}$$ なので
$$
P(M\ge k) = 1 - \Bigl(\frac{k-1}{6}\Bigr)^2\quad (k = 1, 2, \ldots, 6).
$$
tail-sum から
$$
\begin{aligned}
E(M)
&= \sum_{k=1}^{6} P(M\ge k) \\
&= \sum_{k=1}^{6}\left(1 - \Bigl(\frac{k-1}{6}\Bigr)^2\right) \\
&= 6 - \frac{1}{36}\sum_{k=1}^{6}(k - 1)^2 \\
&= 6 - \frac{0 + 1 + 4 + 9 + 16 + 25}{36} \\
&= 6 - \frac{55}{36} = \frac{216 - 55}{36} = \frac{161}{36}.
\end{aligned}
$$
答えは $${E(M) = \frac{161}{36}\approx 4.47}$$。 $${P(M = k)}$$ ルートと一致しました。
どこが楽になったか
tail-sum ルートと差分ルートを比べると、
- 差分ルート:$${P(M\le k)}$$ を出す → $${P(M = k)}$$ を差分で出す → $${k\cdot P(M = k)}$$ を足す
- tail-sum:$${P(M\ge k) = 1 - P(M\le k - 1)}$$ をそのまま足す
tail-sum のほうが 「差分を取る」ステップが省ける ぶん、計算が1段すっきりします。
最大値の分布を扱うときの王道として、
- 最大値の問題には、まず $${P(M\le k)}$$ の方が簡単に出るかを確認
- 出るなら tail-sum で和を取る
を反射的に思い出せると、第VI部の最大値・最小値編がスムーズに進みます。
一般化:さいころを $${n}$$ 回振った最大値
同じ手法を $${n}$$ 回に拡張すると
$$
P(M\le k) = \Bigl(\frac{k}{6}\Bigr)^n,\quad P(M\ge k) = 1 - \Bigl(\frac{k-1}{6}\Bigr)^n.
$$
tail-sum から
$$
E(M) = \sum_{k=1}^{6}\left(1 - \Bigl(\frac{k-1}{6}\Bigr)^n\right) = 6 - \frac{1}{6^n}\sum_{k=0}^{5} k^n.
$$
$${n = 1}$$ なら $${E(M) = 6 - \frac{0 + 1 + 2 + 3 + 4 + 5}{6} = 6 - \frac{15}{6} = \frac{21}{6} = \frac{7}{2}}$$(さいころ1回の期待値そのもの)、 $${n = 2}$$ なら上で計算した $${\frac{161}{36}}$$、 $${n = 3}$$ なら $${6 - \frac{0 + 1 + 8 + 27 + 64 + 125}{216} = 6 - \frac{225}{216} = \frac{1071}{216}\approx 4.96}$$、と、 $${n}$$ が大きくなるほど6に近づきます。直観どおりです。
練習問題
$${{1, 2, \ldots, n}}$$ から無作為に $${k}$$ 個を同時に取り出す( $${1\le k\le n}$$ )。取り出された数の最大値を $${M}$$ とする。tail-sum を使って $${E(M)}$$ を求めよ。
$${M\ge j}$$ となるのは「取り出した $${k}$$ 個のうち少なくとも1つが $${j}$$ 以上」のとき。余事象は「 $${k}$$ 個すべて $${j-1}$$ 以下」で
$$
P(M\ge j) = 1 - \frac{\binom{j-1}{k}}{\binom{n}{k}}.
$$
ここで $${j - 1 < k}$$ のときは $${\binom{j-1}{k} = 0}$$ と約束。
tail-sum から
$$
E(M) = \sum_{j=1}^{n} P(M\ge j) = n - \frac{1}{\binom{n}{k}}\sum_{j=k}^{n-1}\binom{j}{k}.
$$
ホッケースティック恒等式 $${\sum_{j=k}^{n-1}\binom{j}{k} = \binom{n}{k+1}}$$ を使うと
$$
E(M) = n - \frac{\binom{n}{k+1}}{\binom{n}{k}} = n - \frac{n - k}{k+1} = \frac{k(n+1)}{k+1}.
$$
答えは $${E(M) = \frac{k(n+1)}{k+1}}$$。
シリーズ第1記事の京大2026年で $${k = 3}$$ の場合を扱いました( $${E(M) = \frac{3(n+1)}{4}}$$ )。ここで一般の $${k}$$ で出した式は、 $${k = 1}$$ なら $${\frac{n+1}{2}}$$(中央値)、 $${k = n}$$ なら $${n}$$(最大値そのもの)と、極限の値も自然です。
補足:tail-sumと「最大値の分布」の相性
なぜ最大値・最小値の問題で tail-sum がここまで効くか、まとめておきます。
- 最大値 $${M = \max(X_1, \ldots, X_n)}$$ について $${P(M\le k) = \prod_i P(X_i\le k)}$$ が独立性から出る(後の記事で扱う)
- $${P(M\ge k) = 1 - P(M\le k - 1)}$$ で余事象に逃げる
- tail-sum で和を取れば期待値が出る
「分布が直接出にくいけど、 $${P(\text{以下})}$$ や $${P(\text{以上})}$$ なら簡単に出る」という構造が、最大値の問題に共通して現れます。 「分布が簡単に出る」道と「tail-sumに乗せる」道のどちらが早いかを毎回判断する クセをつけてください。
次に読む記事
次回は、また少し趣向を変えて「階段状の得点」や「条件付き加点」のような、得点の期待値を扱う題材を見ます。指示関数を使うと、ボーナス点や条件付きスコアも線形性に乗せて整理できます。
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