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【期待値マスター講座32】「最大値の期待値」=「期待値の最大値」か?

    ゴウカライズ編集部
    4 June, 2026

    この記事では、最大値・最小値の期待値を扱うときに、受験生が最もよく勘違いするポイントを正面から扱います。

    「期待値の最大」と「最大値の期待値」は別物、というのは見ると当たり前ですが、実際の答案では取り違えが多発します。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    誤答編:何がおかしいか

    さいころを2回振り、出た目の最大値を $${M}$$ とする。 $${E(M)}$$ を求めよ。

    誤答の例:「さいころの目の期待値は $${\frac{7}{2}}$$ である。2回のうちの最大は、少なくとも片方は出るので最低でも期待値以上。よって $${E(M) = \frac{7}{2}}$$ である。」

    これは間違いです。正解は第V部の記事28で出した通り

    $$
    E(M) = \frac{161}{36}\approx 4.47.
    $$

    $${\frac{7}{2} = 3.5}$$ より明らかに大きい値です。

    「最大は少なくとも期待値以上」という言い方そのものは、 $${E(M)\ge \max(E(X_1), E(X_2)) = \frac{7}{2}}$$ なので 不等式としては正しい のですが、 等号にはなりません 。受験生は等号で止まってしまいがちです。

    何がおかしいか整理する

    誤答のおかしさを2点整理します。

    1. 「期待値以上の値が出る」ことは1回のさいころでも起こります。実際、 $${X\ge 4}$$ となる確率は $${\frac{1}{2}}$$ です。
    2. ましてや2回振って最大を取れば、 平均的にはもっと大きな値 になります。

    「期待値が $${\frac{7}{2}}$$ だから」と言ってしまうと、これは「平均的な目の値」であって「最大の平均値」ではありません。 言葉の混同 が誤答の正体です。

    一般に

    $$
    E(\max(X_1, X_2)) \ne \max(E(X_1), E(X_2))
    $$

    であり、しかも左辺の方が常に大きいか等しくなります(後で説明する Jensen不等式の特別な場合 )。

    なぜ左辺が大きくなるか

    直観的な説明をします。 $${X_1, X_2}$$ の値が両方とも期待値 $${E(X_1) = E(X_2)}$$ より大きい場合があり、その場合の最大値は両期待値より大きいです。逆に両方が小さい場合、最大値は両期待値より小さいかもしれませんが、 その差は限定的 (最大値は少なくとも片方は拾うので)。

    平均すると、上振れのインパクトが下振れより大きく出るので、 $${E(\max)}$$ は両期待値より大きい側にずれます。

    形式的には、 $${\max(x, y) \ge x}$$ かつ $${\max(x, y)\ge y}$$ から $${E(\max(X_1, X_2))\ge E(X_1)}$$、 $${E(\max(X_1, X_2))\ge E(X_2)}$$ で、両者の最大を取って

    $$
    E(\max(X_1, X_2))\ge \max(E(X_1), E(X_2)).
    $$

    等号成立は、 $${X_1, X_2}$$ が定数のときなど、ばらつきがないケースに限られます。

    正しい姿勢

    最大値・最小値の期待値を扱うときの基本姿勢は次の通りです。

    • 最大値という確率変数 $${M = \max(X_1, \ldots, X_n)}$$ を考える
    • その確率分布、または $${P(M\le k), P(M\ge k)}$$ を出す
    • 定義通りまたは tail-sum で期待値を計算する

    「期待値の最大」「最大の期待値」を混同しないよう、答案で 「最大値という確率変数を $${M}$$ とおく」と最初に書く クセをつけると、計算の見通しがついて誤答も減ります。

    例題:きちんと計算する

    さいころを2回振り、出た目の最大値を $${M}$$ とする。 $${E(M)}$$ を求めよ。

    第V部の記事28で扱いましたが、おさらいします。

    $${M\ge k}$$ となるのは「少なくとも一方の目が $${k}$$ 以上」のとき。余事象は「両方とも $${k-1}$$ 以下」で確率 $${\bigl(\frac{k-1}{6}\bigr)^2}$$ なので

    $$
    P(M\ge k) = 1 - \Bigl(\frac{k-1}{6}\Bigr)^2.
    $$

    tail-sum から

    $$
    E(M) = \sum_{k=1}^{6}\left(1 - \Bigl(\frac{k-1}{6}\Bigr)^2\right) = 6 - \frac{0 + 1 + 4 + 9 + 16 + 25}{36} = 6 - \frac{55}{36} = \frac{161}{36}.
    $$

    これがきちんとした計算です。 $${\frac{7}{2}}$$ と書いてしまうと約 $${1}$$ ずれる 、という規模感を覚えておくと、答えの妥当性チェックにもなります。

    補足:Jensen不等式とつながる

    「最大値の期待値が期待値の最大より大きい」というのは、 Jensen不等式 の特別な場合です。 $${\max(x, y)}$$ という関数は凸関数(下に凸の関数)なので、 $${\varphi}$$ を凸関数として

    $$
    \varphi(E(X))\le E(\varphi(X))
    $$

    という不等式が成り立ちます。 $${\varphi(\cdot) = \max(\cdot, c)}$$ のような形で、最大値もこの枠組みに入ります。

    詳しくは第VII部の最後で扱いますが、 「平均と関数を入れ替えてはいけない」 という一般原理の現れだと押さえておいてください。 $${E(X^2)\ne E(X)^2}$$、$${E(1/X)\ne 1/E(X)}$$、 $${E(\max)\ne \max(E)}$$、これらはすべて同じ原理から来ています。

    練習問題

    公正なコインを3回投げて、表が出た回数を $${X_1, X_2, X_3}$$(ただし各 $${X_i}$$ は0または1で、 $${i}$$ 回目が表なら1)とする。 $${\max(X_1, X_2, X_3)}$$ の期待値と、 $${\max(E(X_1), E(X_2), E(X_3))}$$ を比較せよ。

    $${X_i}$$ は表なら1、裏なら0の確率変数で、 $${E(X_i) = \frac{1}{2}}$$。したがって $${\max(E(X_1), E(X_2), E(X_3)) = \frac{1}{2}}$$。

    一方、 $${\max(X_1, X_2, X_3)}$$ は「3回のうち少なくとも1回は表が出たかどうか」を表す $${0/1}$$ 変数です。

    $${\max = 0}$$ は「3回とも裏」で確率 $${\bigl(\frac{1}{2}\bigr)^3 = \frac{1}{8}}$$。 $${\max = 1}$$ は確率 $${\frac{7}{8}}$$。

    $$
    E(\max(X_1, X_2, X_3)) = 0\cdot \frac{1}{8} + 1\cdot \frac{7}{8} = \frac{7}{8}.
    $$

    比較すると

    $$
    \frac{7}{8} > \frac{1}{2}
    $$

    で、 最大値の期待値の方が大きい 。 $${E(\max)\ne \max(E)}$$ を具体的な数値で確認できました。

    次に読む記事

    次回は、最大値・最小値の確率分布を、 独立同分布 の場合に整理します。 $${P(\max\le k) = P(X_1\le k)^n}$$ という、独立性から出る積分解の公式を、ちゃんと押さえておきます。 $${E(\max)}$$ や $${E(\min)}$$ の計算がスムーズになる準備です。

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