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【期待値マスター講座17】"非復元抽出"でも"復元抽出"と期待値が同じ!?
この記事では、引いたら戻さない「非復元抽出」での合計点の期待値を扱います。
各回が独立でないにもかかわらず、和の期待値は復元抽出と全く同じ式 ${\frac{m(n+1)}{2}}$ になることを確かめます。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
設定の違いをまず確認
前回扱った復元抽出は「毎回戻す」、今回の非復元抽出は「引いたら戻さない」。前者は各回が独立、後者は各回が従属です。
直観的には、 非復元のほうが扱いが難しそうに見えます 。実際、和の確率分布を直接書き下すと、非復元のほうがすぐに手に負えなくなります。
ところが、 期待値の線形性は独立性を要求しない ので、非復元抽出でも復元と同じ手間で和の期待値が出ます。これが本シリーズで何度も強調している事実の、最も鮮やかな例です。
例題:非復元抽出での合計点
1から $${n}$$ までの番号が書かれたカード各々1枚が袋に入っている。 $${m}$$ 枚( $${1\le m\le n}$$ )を同時に取り出すとき、取り出された数の和 $${S}$$ の期待値を求めよ。
「同時に取り出す」も「1枚ずつ戻さずに $${m}$$ 回引く」も、最終的な $${m}$$ 枚の組合せは同じなので、ここではどちらの言い方でも構いません。
ここで $${1}$$ から $${n}$$ までの各カード $${k}$$ について、次の指示関数を考えます。
$$
I_k = \begin{cases} 1 & (k \text{ 番のカードが取り出された}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
$$
すると、取り出された数の和は
$$
S = \sum_{k=1}^{n} k\cdot I_k
$$
と書けます。「カード $${k}$$ が取り出されていれば $${k}$$ を、取り出されていなければ $${0}$$ を足す」と読めば自然な式です。
「カード$${k}$$ が取り出される確率」
$${P(I_k = 1)}$$ は、 $${k}$$ 番のカードが取り出された $${m}$$ 枚の中に含まれる確率です。前回の「くじ引きの公平性」と同じ理屈で、これは
$$
P(I_k = 1) = \frac{m}{n}
$$
になります。全 $${n}$$ 枚の中から $${m}$$ 枚を選ぶとき、特定の1枚が選ばれる確率は「選ばれる席が $${m}$$ 個」「全席が $${n}$$ 個」で $${\frac{m}{n}}$$ です。
したがって $${E(I_k) = \frac{m}{n}}$$。
線形性で答えを出す
線形性により
$$
\begin{aligned}
E(S)
&= \sum_{k=1}^{n} k\cdot E(I_k) \\
&= \frac{m}{n}\sum_{k=1}^{n} k \\
&= \frac{m}{n}\cdot \frac{n(n+1)}{2} \\
&= \frac{m(n+1)}{2}.
\end{aligned}
$$
答えは $${E(S) = \frac{m(n+1)}{2}}$$。
復元と非復元で答えが同じ理由
前回の復元抽出の答えも $${\frac{m(n+1)}{2}}$$ でした。引いたら戻すか戻さないかで設定はまったく違うのに、期待値だけ見ると同じ式になります。
これは偶然ではなく、 「カード $${k}$$ が選ばれる確率」が復元・非復元を問わず $${\frac{m}{n}}$$ になる ことから来ています。復元では $${m}$$ 回独立に引いて少なくとも1回 $${k}$$ を引く確率…ではなく、 取り出された数を全部足す という設定の話なので、 $${k}$$ が「何回含まれるかの期待値」が問題になります。
実は、復元の場合は「カード $${k}$$ が含まれる回数」の期待値が $${\frac{m}{n}}$$ で(二項分布 $${B(m, \frac{1}{n})}$$ の期待値)、非復元の場合は「カード $${k}$$ が含まれているか」の期待値が $${\frac{m}{n}}$$ で、両者は別の量なのに同じ値になっています。和を取ると同じ式に集約される、というのが線形性の落ち着き先です。
独立性が必要な量では答えが違う
「和の期待値だけは同じ」と強調しましたが、 分散 や 3つ以上の和 などを考えると、復元と非復元では大きく異なる値になります。
たとえば $${V(S)}$$ について、復元では $${V(S) = m V(X_1)}$$(独立なので分散の加法性)で簡単ですが、非復元では $${I_k}$$ たちが従属なので、共分散項を考慮しなければなりません。詳しくは第VII部で扱いますが、ここでは「線形性で済むのは和の期待値だけ」ということを意識しておいてください。
非線形量(積、最大、最小など)を扱うときは、独立か否かを必ず気にする習慣が大切です。
$${I_k}$$ たちは独立でない
念のために独立でないことを確かめます。 $${n = 3, m = 2}$$(3枚から2枚取り出す)の場合、
$$
P(I_1 = 1) = \frac{2}{3},\quad P(I_2 = 1) = \frac{2}{3}.
$$
ところが、 $${I_1 = 1}$$ と $${I_2 = 1}$$ の両方が成り立つのは「取り出した2枚が $${{1, 2}}$$」のときで、 $${\binom{3}{2}=3}$$ 通り中1通り。したがって
$$
P(I_1 = 1, I_2 = 1) = \frac{1}{3}.
$$
積で書くと $${P(I_1=1)\cdot P(I_2=1) = \frac{2}{3}\cdot \frac{2}{3} = \frac{4}{9}}$$ で、 $${\frac{1}{3} = \frac{3}{9}}$$ と一致しません。独立ではない、と確認できました。
それでも線形性 $${E(S) = \sum_k k\cdot E(I_k)}$$ は何の問題もなく成立し、復元と同じ答えに到達しました。
練習問題
1から10までの番号が書かれたカード10枚から、無作為に3枚を同時に取り出す。取り出された数の和 $${S}$$ の期待値を求めよ。
公式に $${n = 10, m = 3}$$ を入れて
$$
E(S) = \frac{3\cdot 11}{2} = \frac{33}{2} = 16.5.
$$
または、各カード $${k}$$ について $${E(I_k) = \frac{3}{10}}$$ で、
$$
E(S) = \frac{3}{10}\sum_{k=1}^{10} k = \frac{3}{10}\cdot 55 = 16.5
$$
としても同じ。 3枚を取って和を作るのだから、平均的には $${\frac{3}{10}}$$ × 全体の和 という、簡単な比例関係が見える形になっています。
次に読む記事
次回は、復元・非復元の話を「色付きのボール」に拡張します。赤玉と白玉が入った袋から $${m}$$ 個を取り出したときの赤玉の個数の期待値を、指示関数で扱います。袋の中のボール問題は、入試の確率の典型題のひとつです。
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