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大学受験ブログ

【期待値マスター講座39】Jensenの不等式(凸不等式)と期待値の関係 (大学入試数学)
この記事では、第VII部の締めくくりとしてJensen不等式を扱います。
「凸関数で値を変形した後の平均は、平均を変形した値より大きい」という不等式で、 ${E(X^2)\ne E(X)^2}$ や ${E(\max)\ne \max(E)}$ などの一般原理にあたります。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
ステートメント
定理(Jensen不等式・簡易版):関数 $${\varphi}$$ が 凸関数 (下に凸)であるとき、任意の確率変数 $${X}$$ について
$$
\varphi(E(X)) \le E(\varphi(X)).
$$
$${\varphi}$$ が凹関数(上に凸)なら不等号が逆向きになります。
「凸関数で値を変形した後の平均は、平均を変形した値より大きい」というのが内容です。 「平均と関数を入れ替えてはいけない」 という警告にもなります。
なぜ凸関数で不等号がこの向きになるか
直観的な説明をします。凸関数 $${\varphi}$$ は、グラフが弦より下にある関数です。具体的には、 $${x_1, x_2}$$ と $${0\le t\le 1}$$ について
$$
\varphi(tx_1 + (1-t)x_2) \le t\varphi(x_1) + (1-t)\varphi(x_2).
$$
左辺は「先に平均してから関数」、右辺は「先に関数してから平均」。 右辺の方が大きい 。
確率変数で書き直すと、 $${X}$$ が $${x_1, x_2}$$ を確率 $${t, 1-t}$$ でとる場合、 $${E(X) = tx_1 + (1-t)x_2}$$ で
$$
\varphi(E(X)) \le E(\varphi(X)).
$$
これを一般の確率変数に拡張したものがJensen不等式です。
例題:$${E(X^2)\ge E(X)^2}$$ を確認する
公正なさいころを1回振った目を $${X}$$ とする。 $${E(X^2)}$$ と $${(E(X))^2}$$ を比較せよ。
$${E(X) = \frac{7}{2}}$$ なので $${(E(X))^2 = \frac{49}{4}}$$。 $${E(X^2) = \frac{91}{6}}$$。
通分して
$$
E(X^2) - (E(X))^2 = \frac{91}{6} - \frac{49}{4} = \frac{182 - 147}{12} = \frac{35}{12} > 0.
$$
$${E(X^2) > E(X)^2}$$ で、 $${\varphi(x) = x^2}$$ が凸関数なのでJensen不等式の通りの不等号が成立しています。
ちなみに $${\frac{35}{12}}$$ は分散 $${V(X)}$$ そのものです。これは偶然ではなく
$$
V(X) = E(X^2) - E(X)^2
$$
が常に非負(つまりJensen不等式が成立)であることを意味します。 分散が常に非負 という基本的な性質は、 $${\varphi(x) = x^2}$$ の凸性 から従う、と読めるわけです。
等号 $${E(X^2) = E(X)^2}$$ は $${V(X) = 0}$$、つまり $${X}$$ が定数のときのみ。ばらつきを持つ限り厳密な不等号です。
例題:$${E(1/X)\ne 1/E(X)}$$
確率変数 $${X}$$ が $${1}$$ と $${2}$$ を確率 $${\frac{1}{2}}$$ ずつでとる。 $${E(1/X)}$$ と $${1/E(X)}$$ を比較せよ。
$${E(X) = \frac{1 + 2}{2} = \frac{3}{2}}$$ なので $${\frac{1}{E(X)} = \frac{2}{3}}$$。
$${E(1/X) = \frac{1}{2}\cdot 1 + \frac{1}{2}\cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{2} + \frac{1}{4} = \frac{3}{4}}$$。
比較すると $${E(1/X) = \frac{3}{4} > \frac{2}{3} = \frac{1}{E(X)}}$$。
$${\varphi(x) = 1/x}$$ は $${x > 0}$$ で凸関数なので、Jensen不等式から $${\varphi(E(X)) \le E(\varphi(X))}$$、すなわち $${\frac{1}{E(X)} \le E(1/X)}$$ が成立、ということが確認できました。
凹関数の場合
$${\varphi}$$ が凹関数(上に凸、たとえば $${\log x}$$、 $${\sqrt{x}}$$)なら、不等号が逆向きで
$$
\varphi(E(X)) \ge E(\varphi(X)).
$$
たとえば $${E(\log X) \le \log(E(X))}$$。 「先に平均してから対数」のほうが大きい 、というのが凹関数版。経済学の効用関数の議論で頻出します。
第VI部の誤答との接続
第VI部の記事32で「 $${E(\max)\ne \max(E)}$$」と扱いました。これも実はJensen不等式の一例です。 $${\varphi(x_1, x_2) = \max(x_1, x_2)}$$ は2変数の凸関数で、Jensen不等式の多変数版を適用すると
$$
\max(E(X_1), E(X_2)) \le E(\max(X_1, X_2)).
$$
「期待値の最大より、最大の期待値の方が大きい」というのが、 $${\max}$$ の凸性から従います。
同じく、最小値 $${\min}$$ は凹関数なので $${\min(E(X_1), E(X_2)) \ge E(\min(X_1, X_2))}$$ という逆向きの不等式が成立します。
入試での実用
Jensen不等式そのものが入試で頻出するわけではありません。けれど、
- $${E(X^2)\ne E(X)^2}$$(分散が0でなければ)
- $${E(\max)\ne \max(E)}$$(ばらつきがあれば)
- $${E(1/X)\ne 1/E(X)}$$
のような「平均と関数の順序を入れ替えてはいけない」場面は、入試で繰り返し出てきます。 「凸関数なら $${\le}$$、凹関数なら $${\ge}$$」 という大枠を覚えておくと、誤答を避ける道しるべになります。
「期待値が3.5 だから、最大の期待値も3.5」のような誤答を見たら、 「最大は凸関数だから、Jensenから大きくなる」 と即座に判定できると、答案で迷いません。
第VII部のまとめ
第VII部では「成り立たない性質」を4本にわたって扱いました。
- 分散の定義と独立な確率変数の積:$${E(XY) = E(X)E(Y)}$$、 $${V(X+Y) = V(X) + V(Y)}$$(独立は十分条件、必要条件は無相関)
- 非独立な積:$${Y = X^2}$$ では積の公式が破れる
- 共分散の意味:正なら同方向、負なら逆方向、ゼロなら無相関
- Jensen不等式:凸関数で $${\varphi(E(X))\le E(\varphi(X))}$$
線形性の射程の外にあるけれど、入試で繰り返し問われる重要な性質たちです。 「和の期待値」以外の量を扱うときは、独立性や凸性を必ず気にする 習慣をつけてください。
次の第VIII部では、もう少し違う角度で「期待値と勝率は違う」というテーマに進みます。京大1997年の名問題を扱う準備として、まずはハイリスク・ハイリターンの感覚を整理します。
次に読む記事
次回から第VIII部「期待値と勝率は違う編」です。「期待値が高い側が、必ず勝率も高い」とは限らない、というのを、最初は簡単な2択ゲームで確認します。期待値と勝率の混同が、ギャンブルやスポーツの感覚でよく起きる、というのを定量的に押さえます。
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