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【期待値マスター講座38】共分散の符号で変数の関係を読み解く (大学入試数学)
この記事では、確率変数のペアの関係性を測る量「共分散」を改めて整理します。
${\mathrm{Cov}(X, Y) = E(XY) - E(X)E(Y)}$ の符号と大きさが、 ${X}$ と ${Y}$ の関係をどう表すか、いくつかの例で確認します。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
共分散の定義と性質
$${X, Y}$$ の共分散を
$$
\mathrm{Cov}(X, Y) = E(XY) - E(X)\cdot E(Y)
$$
と定義します。記事36の分散の議論で出てきた、 $${V(X + Y) = V(X) + V(Y) + 2\mathrm{Cov}(X, Y)}$$ の最後の項です。
別の書き方として
$$
\mathrm{Cov}(X, Y) = E\bigl((X - E(X))(Y - E(Y))\bigr)
$$
としても等しいです。展開して整理すると上の式と一致します。 「両方が平均から同じ方向にずれる」傾向の平均 、というのが共分散の直観です。
性質1:対称性
$${\mathrm{Cov}(X, Y) = \mathrm{Cov}(Y, X)}$$
定義式から明らか。
性質2:自己分散
$${\mathrm{Cov}(X, X) = V(X)}$$
これも定義通り。
性質3:線形性
$${\mathrm{Cov}(aX + b, cY + d) = ac\cdot \mathrm{Cov}(X, Y)}$$
定数の足し算は共分散に影響せず、定数倍は積になる。
符号の読み方
共分散の符号で、 $${X, Y}$$ の関係を大まかに分類できます。
- $${\mathrm{Cov}(X, Y) > 0}$$ :正の相関(一方が増えれば他方も増える傾向)
- $${\mathrm{Cov}(X, Y) = 0}$$ :無相関(線形な関係はない)
- $${\mathrm{Cov}(X, Y) < 0}$$ :負の相関(一方が増えれば他方は減る傾向)
ただし、共分散の値そのものは $${X, Y}$$ のスケール(単位)に依存します。たとえば $${X}$$ をメートルから cm に変えると共分散は100倍になります。スケールを揃えて比較したいときは、 相関係数 $${\rho = \frac{\mathrm{Cov}(X, Y)}{\sqrt{V(X)V(Y)}}}$$ を使いますが、これは入試では深入りしません。
例題:正の相関、負の相関、無相関
次の3組について、それぞれ共分散を計算せよ。
(a) さいころを2回振り、出目を $${X_1, X_2}$$ とする。 $${X_1}$$ と $${X_2}$$。
(b) さいころを1回振り、 $${X = }$$ 出目、 $${Y = 7 - X}$$ とする。 $${X}$$ と $${Y}$$。
(c) さいころを1回振り、 $${X = }$$ 出目、 $${Z = X^2}$$ とする。 $${X}$$ と $${Z}$$。
(a) $${X_1, X_2}$$ は独立なので $${E(X_1 X_2) = E(X_1)E(X_2)}$$ で $${\mathrm{Cov}(X_1, X_2) = 0}$$。 独立 $${\Rightarrow}$$ 無相関 の典型例です。
(b) $${Y = 7 - X}$$ は強い負の関係。 $${E(X) = \frac{7}{2}}$$、 $${E(Y) = \frac{7}{2}}$$、 $${E(XY) = E(X(7-X)) = 7 E(X) - E(X^2) = 7\cdot \frac{7}{2} - \frac{91}{6} = \frac{49}{2} - \frac{91}{6} = \frac{147 - 91}{6} = \frac{56}{6} = \frac{28}{3}}$$。
$${\mathrm{Cov}(X, Y) = \frac{28}{3} - \frac{7}{2}\cdot \frac{7}{2} = \frac{28}{3} - \frac{49}{4} = \frac{112 - 147}{12} = -\frac{35}{12}}$$。
負の値で、 負の相関 。 $${X}$$ が大きいと $${Y = 7 - X}$$ が小さくなる、という関係を反映しています。 $${-\frac{35}{12}}$$ は $${-V(X)}$$ に等しく、これは $${Y = -X + }$$ 定数の場合の自然な値です。
(c) $${Z = X^2}$$ は強い正の関係。記事37で計算した通り
$${\mathrm{Cov}(X, Z) = E(XZ) - E(X)E(Z) = \frac{147}{2} - \frac{7}{2}\cdot \frac{91}{6} = \frac{882 - 637}{12} = \frac{245}{12}}$$。
正の値で、 正の相関 。 $${X}$$ が大きいと $${Z = X^2}$$ も大きいので当然です。
無相関だが独立でない
共分散が0でも独立でないことがある、という事実は記事7と37で見ました。再度確認すると、 $${X\in{-1, 0, 1}}$$ を等確率、 $${Y = X^2}$$ で
- $${E(X) = 0}$$、 $${E(XY) = E(X^3) = 0}$$ なので $${\mathrm{Cov}(X, Y) = 0}$$ で 無相関 。
- ところが $${Y}$$ は $${X}$$ の関数で、独立ではない。
直観的には、 $${X}$$ が対称に分布しているために、 $${X}$$ と $${X^2}$$ の積の平均が0になり、 線形の関係が消える からです。それでも $${Y}$$ は $${X}$$ で完全に決まるので、独立ではない。
「共分散はあくまで 線形な関係 を測る量」というのが、ここで強調したい点です。
共分散の応用:和の分散
共分散があれば、独立でない確率変数の和の分散も計算できます。
$${X, Y}$$ について $${V(X) = a}$$、 $${V(Y) = b}$$、 $${\mathrm{Cov}(X, Y) = c}$$ とするとき、 $${V(X + Y)}$$ を求めよ。
公式から
$$
V(X + Y) = V(X) + V(Y) + 2 \mathrm{Cov}(X, Y) = a + b + 2c.
$$
たとえば $${c = 0}$$(無相関)なら $${a + b}$$(加法性)、 $${c > 0}$$(正の相関)なら $${a + b}$$ より大きく、 $${c < 0}$$ なら小さくなります。
直観的には、
- 正の相関:両方が同時に大きくなり同時に小さくなるので、和のばらつきは個別のばらつきの和より大きい
- 負の相関:片方が大きいとき他方が小さいので打ち消し合い、和のばらつきは小さい
- 無相関:個別の合算(独立と同じ振る舞い)
という関係です。
3個以上への一般化
$${X_1, \ldots, X_n}$$ について
$$
V\Bigl(\sum_{i=1}^{n} X_i\Bigr) = \sum_{i=1}^{n} V(X_i) + 2\sum_{1\le i < j\le n} \mathrm{Cov}(X_i, X_j).
$$
互いに無相関(または独立)なら共分散項がすべて0で $${\sum V(X_i)}$$ になりますが、従属だと共分散項を全部計算する必要があります。
たとえばモンモール問題(記事31)の $${V(X) = 1}$$ の計算では、 $${\mathrm{Cov}(I_i, I_j) = \frac{1}{n^2(n-1)}}$$ を $${n(n-1)}$$ 個のペアで足して $${V(X) = (n-1)/n + 1/n = 1}$$ という計算をしました。共分散項のおかげで、 $${n}$$ に依らず一定の値になるという、繊細なキャンセルが起きています。
練習問題
さいころを2回独立に振り、出目を $${X_1, X_2}$$ とする。 $${S = X_1 + X_2}$$ と $${D = X_1 - X_2}$$ について、 $${\mathrm{Cov}(S, D)}$$ を求めよ。
$${E(S) = 7}$$、$${E(D) = 0}$$、$${E(SD) = E(X_1^2 - X_2^2) = E(X_1^2) - E(X_2^2) = 0}$$(同分布)。
$$
\mathrm{Cov}(S, D) = E(SD) - E(S)E(D) = 0 - 7\cdot 0 = 0.
$$
$${S}$$ と $${D}$$ は無相関 。
ただし、 $${S}$$ と $${D}$$ は独立ではありません。たとえば $${S = 2}$$(つまり $${X_1 = X_2 = 1}$$)なら $${D = 0}$$ で確定するなど、両者の値は連動します。 「無相関なのに独立でない」もう一つの典型例 です。
次に読む記事
次回は、第VII部の最後として Jensen不等式 を扱います。「凸関数で値を変形した後の平均は、平均を変形した値より大きい」という不等式で、 $${E(\max)\ne \max(E)}$$、 $${E(X^2)\ne E(X)^2}$$ などの一般原理になっています。
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