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【期待値マスター講座47】E(X)=1からモンモール数の恒等式を逆算する (大学入試数学)
この記事では、第IX部の締めくくりとして「期待値の値から、組合せ恒等式を導く」逆向きの応用を扱います。
モンモール問題のヒット数 ${E(X) = 1}$ という単純な事実から、 ${\sum_{k=0}^{n} k\binom{n}{k} D_{n-k} = n!}$ という恒等式を引き出します。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
期待値の値から場合の数を読む
期待値はいつも「確率変数 → 期待値」という方向で計算してきました。ところが、 期待値の値が分かっていれば、その式の中身を「場合の数」の関係に読み替えられる ことがあります。
具体的には、 $${E(X) = \sum_k k\cdot P(X = k)}$$ という定義から
$$
\sum_k k\cdot P(X = k) = E(X)
$$
を、 $${P(X = k) = \frac{h_k}{N}}$$( $${h_k}$$ は $${X = k}$$ となる場合の数、 $${N}$$ は全事象の数)と書き直すと
$$
\sum_k k\cdot h_k = N\cdot E(X).
$$
「場合の数 × 値の和」が「全数 × 期待値」、というのが基本式です。期待値が綺麗な値(たとえば $${1}$$ )になる問題では、 場合の数についての非自明な等式 が得られます。
例題:モンモール問題で確認
1から $${n}$$ までの番号がついたカード $${n}$$ 枚を、無作為に1列に並べる。「カード $${k}$$ が左から $${k}$$ 番目」となるカードの個数を $${X}$$ とする。
(1) $${E(X) = 1}$$ を用いて、並べ方の総数 $${n!}$$ のうち「 $${X = k}$$」となるものの個数を $${h_k}$$ とすると、 $${\sum_{k=0}^{n} k\cdot h_k = n!}$$ が成り立つことを確認せよ。
(2) $${h_k = \binom{n}{k} D_{n-k}}$$ を用い、 $${\sum_{k=0}^{n} k \binom{n}{k} D_{n-k} = n!}$$ を導出せよ。
第IV部の記事23で扱った「ヒット問題」(モンモール問題のヒット数)で、 $${E(X) = 1}$$ を線形性で出しました。これを場合の数の言葉に翻訳します。
(1) 場合の数による表現
期待値の定義から
$$
E(X) = \sum_{k=0}^{n} k\cdot P(X = k) = \sum_{k=0}^{n} k\cdot \frac{h_k}{n!}.
$$
両辺に $${n!}$$ を掛けると
$$
n!\cdot E(X) = \sum_{k=0}^{n} k\cdot h_k.
$$
$${E(X) = 1}$$ を代入して
$$
\sum_{k=0}^{n} k\cdot h_k = n!.
$$
これが (1) の確認です。
(2) $${h_k}$$ の閉じた形
ちょうど $${k}$$ 個のカードが「正しい位置」にあるパターンの数 $${h_k}$$ を求めます。
- 正しい位置に置く $${k}$$ 個のカードの選び方:$${\binom{n}{k}}$$ 通り
- 残り $${n - k}$$ 個のカードは、全員「自分の位置にない」配置:これは $${n - k}$$ 個の完全順列で $${D_{n-k}}$$ 通り
したがって
$$
h_k = \binom{n}{k}\cdot D_{n-k}.
$$
(1) と合わせて
$$
\sum_{k=0}^{n} k\binom{n}{k} D_{n-k} = n!.
$$
これが目標の組合せ恒等式です。
便宜上 $${D_0 = 1}$$ と約束しておきます(第IX部の記事43で確認した通り)。 $${k = n}$$ の項は $${n\cdot \binom{n}{n}\cdot D_0 = n}$$ で、正しく式に含まれます。
直接の検証
$${n = 4}$$ で確認します。
$${\sum_{k=0}^{4} k\binom{4}{k} D_{4-k}}$$
- $${k = 0}$$:$${0\cdot 1\cdot D_4 = 0}$$
- $${k = 1}$$:$${1\cdot 4\cdot D_3 = 4\cdot 2 = 8}$$
- $${k = 2}$$:$${2\cdot 6\cdot D_2 = 12\cdot 1 = 12}$$
- $${k = 3}$$:$${3\cdot 4\cdot D_1 = 12\cdot 0 = 0}$$
- $${k = 4}$$:$${4\cdot 1\cdot D_0 = 4\cdot 1 = 4}$$
合計 $${0 + 8 + 12 + 0 + 4 = 24 = 4!}$$。等式が成立しています。
何が起きたか
ポイントは、 「線形性から得た $${E(X) = 1}$$」を、場合の数の世界に持ち帰った ことです。
通常、組合せ恒等式 $${\sum_k k\binom{n}{k} D_{n-k} = n!}$$ を直接示そうとすると、二項係数や階乗の代数操作が必要になり、見通しが立ちにくいです。一方、 確率の世界で $${E(X) = 1}$$ を出すのは、指示関数 + 線形性で2行 。そこから等式を読み取れば、組合せ的な意味も自然に分かります。
これは 確率的証明(probabilistic proof) と呼ばれる手法で、組合せ論や数論で重要な役割を果たします。「期待値や確率を使って、組合せ的な等式を示す」というアプローチは、高校範囲を超えて応用されます。
別の例:和の期待値から $${\sum k = n(n+1)/2}$$
もう少しシンプルな例として、 $${{1, 2, \ldots, n}}$$ から無作為に1つを取り出す試行を考えると、
$$
E(X) = \frac{1 + 2 + \cdots + n}{n} = \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n} k.
$$
直接計算で $${E(X) = \frac{n+1}{2}}$$ なら、
$$
\sum_{k=1}^{n} k = n\cdot \frac{n+1}{2} = \frac{n(n+1)}{2}.
$$
おなじみの等式が、 期待値の言葉から自然に出てきます 。
これはほぼ自明な書き換えですが、 「期待値計算」と「和の公式」の対応 を意識すると、互いに行き来できるようになります。
練習問題
ヒット数 $${X}$$ の分散 $${V(X) = E(X^2) - E(X)^2 = 1}$$(記事31)から、組合せ恒等式 $${\sum_{k=0}^{n} k^2 \binom{n}{k} D_{n-k} = 2\cdot n!}$$ を導け。 $${n\ge 2}$$ とする。
$${E(X^2) = V(X) + E(X)^2 = 1 + 1 = 2}$$。
期待値の定義から
$$
E(X^2) = \sum_{k=0}^{n} k^2\cdot \frac{h_k}{n!} = \sum_{k=0}^{n} k^2\cdot \frac{\binom{n}{k} D_{n-k}}{n!}.
$$
$${E(X^2) = 2}$$ なので
$$
\sum_{k=0}^{n} k^2 \binom{n}{k} D_{n-k} = 2\cdot n!.
$$
$${n = 4}$$ で検算すると
- $${k = 0}$$:$${0}$$
- $${k = 1}$$:$${1\cdot 4\cdot 2 = 8}$$
- $${k = 2}$$:$${4\cdot 6\cdot 1 = 24}$$
- $${k = 3}$$:$${9\cdot 4\cdot 0 = 0}$$
- $${k = 4}$$:$${16\cdot 1\cdot 1 = 16}$$
合計 $${48 = 2\cdot 4!}$$。OK。
期待値・分散の値から、 モンモール数を含む恒等式が次々と出てくる 、というのが興味深い現象です。 $${E(X^k)}$$ を高次まで求めれば、もっと複雑な恒等式が得られます。
第IX部のまとめ
第IX部では、漸化式アプローチを6本にわたって扱いました。
- 漸化式アプローチの全体像と基本形 $${e_s = 1 + \sum p_{ss'} e_{s'}}$$
- モンモール数 $${D_n = (n-1)(D_{n-1} + D_{n-2})}$$、 $${D_0 = 1}$$ の約束
- コイン投げ:初めて表が出るまで $${E(X) = 2}$$、幾何分布の典型
- 1次元ランダムウォーク $${e_i = i(n - i)}$$、線形差分方程式の解
- 2人じゃんけんで決着するまで $${E(N) = \frac{3}{2}}$$、 $${\frac{1}{p}}$$ の応用
- 期待値から場合の数を逆算:$${E(X) = 1}$$ から組合せ恒等式
「状態遷移」「初めて〇〇が起きるまで」型の問題は、 漸化式が圧倒的に効く 、というのが第IX部のメッセージです。
次の第X部では、これまで身につけた指示関数・線形性・tail-sum・漸化式の道具をフル動員して、実際の入試問題6題に取り組みます。
次に読む記事
次回から第X部「入試問題総合演習編」です。鹿児島大、東北大、一橋大、慶應医、京大、昭和医の6題を、1題ずつ扱います。最初の回は鹿児島大2024年度(前期)の問題から始めます。
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