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【期待値マスター講座45】ランダムウォークの吸収時間を漸化式で解く (大学入試数学)

    ゴウカライズ編集部
    8 June, 2026

    この記事では、1次元ランダムウォークで両端の境界に到達するまでの期待回数を、漸化式 ${e_i = 1 + \frac{1}{2}e_{i-1} + \frac{1}{2}e_{i+1}}$ から導きます。

    答えは ${e_i = i(n-i)}$ という綺麗な形になります。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    問題

    数直線上の位置 $${i}$$( $${0\le i\le n}$$、 $${i}$$ は整数)に駒がある。毎回、確率 $${\frac{1}{2}}$$ で右に $${+1}$$、確率 $${\frac{1}{2}}$$ で左に $${-1}$$ 移動する。位置 $${0}$$ または位置 $${n}$$ に到達したらゲーム終了。最初の位置が $${i}$$ のとき、終了までの試行回数の期待値を $${e_i}$$ とする。 $${e_i}$$ を $${i, n}$$ で表せ。

    これは「両端で吸収される1次元ランダムウォーク」と呼ばれる古典的な問題です。位置 $${0}$$ と位置 $${n}$$ が 吸収壁 で、そこに到達するとゲームが止まります。

    漸化式を立てる

    境界条件:$${e_0 = e_n = 0}$$(すでに端にいれば0回で終了)。

    $${0 < i < n}$$ では、1回試行すると確率 $${\frac{1}{2}}$$ で位置が $${i+1}$$ に動き、確率 $${\frac{1}{2}}$$ で位置が $${i-1}$$ に動きます。期待値の関係から

    $$
    e_i = 1 + \frac{1}{2} e_{i-1} + \frac{1}{2} e_{i+1}\quad (0 < i < n).
    $$

    「1回試行する $${+}$$ 遷移先からの期待回数」を、 $${\frac{1}{2}}$$ ずつの確率で重み付けして足したものです。

    整理すると

    $$
    e_{i+1} - 2 e_i + e_{i-1} = -2.
    $$

    これは 2階線形差分方程式 の形で、特殊解と斉次解の和として書けます。

    解く

    差分方程式 $${e_{i+1} - 2 e_i + e_{i-1} = -2}$$ の 斉次解 は $${A + Bi}$$(線形関数)。

    特殊解 は $${-i^2}$$ が満たします。実際 $${(i+1)^2 - 2i^2 + (i-1)^2 = (i^2 + 2i + 1) - 2i^2 + (i^2 - 2i + 1) = 2}$$ で、 $${-i^2}$$ なら $${-2}$$ を返します。

    一般解は

    $$
    e_i = A + Bi - i^2.
    $$

    境界条件 $${e_0 = 0}$$ から $${A = 0}$$。 $${e_n = 0}$$ から $${Bn - n^2 = 0}$$ で $${B = n}$$。

    したがって

    $$
    e_i = n i - i^2 = i(n - i).
    $$

    答えは $${e_i = i(n - i)}$$。

    結果の読み方

    具体的に小さな $${n}$$ で見ます。

    $${n = 10}$$ で各位置からの期待回数:

    • $${e_1 = 1\cdot 9 = 9}$$
    • $${e_5 = 5\cdot 5 = 25}$$
    • $${e_9 = 9\cdot 1 = 9}$$

    中央 $${i = 5}$$ から始めるのが最も時間がかかり、平均25回 。端 $${i = 1, 9}$$ なら平均9回(左にずっと進めば即終了するので、平均は短い)。

    対称性 $${e_i = e_{n-i}}$$ も自然に出ています。 $${i}$$ から左端 $${0}$$ までと、 $${n-i}$$ から右端 $${n}$$ までは、対称な距離だから時間も同じ。

    $${e_i = i(n-i)}$$ の意味

    $${e_i = i(n - i)}$$ は、 「左端までの距離」 × 「右端までの距離」 という、ちょっと意外な形をしています。

    直観的な解釈は次の通り。 $${i}$$ から終了までの期待回数は、左に $${i}$$、右に $${n - i}$$ という不対称な状況で決まります。両方向の距離の積が、平均試行回数になる、という結果は 計算してみないと気づきにくい 形です。

    連続版(ブラウン運動)でも同様の結果が成り立ち、 $${[0, n]}$$ の中での吸収時間の期待値が距離の積になる、というのは確率論の古典的な結果として広く知られています。

    検算:$${n = 2}$$ の場合

    $${n = 2}$$、 $${i = 1}$$ で考えます。位置1からスタートし、 $${\frac{1}{2}}$$ で0、 $${\frac{1}{2}}$$ で2、どちらも吸収壁。1回で必ず終了するので $${e_1 = 1}$$。

    公式から $${e_1 = 1\cdot (2 - 1) = 1}$$。一致。

    $${n = 3}$$、 $${i = 1}$$ なら $${e_1 = 1\cdot 2 = 2}$$。手で確かめると、1回目に左に行けば終了(確率 $${\frac{1}{2}}$$ で1回)、右に行けば位置2でまた同じ問題(対称性から $${e_2 = e_1 = 2}$$ )、…と書くと幾何分布混じりの計算になり、結局 $${e_1 = 2}$$ に到達します。

    $${e_i}$$ の漸化式の解き方をもう一度

    「2階線形差分方程式 $${e_{i+1} - 2 e_i + e_{i-1} = -2}$$」を解く流れは、 数列の漸化式の解法と全く同じ です。

    • 斉次解 $${e_i^{(h)}}$$:差分が0になる方程式 $${e_{i+1} - 2 e_i + e_{i-1} = 0}$$ の解。特性方程式 $${\lambda^2 - 2\lambda + 1 = 0}$$ が重解 $${\lambda = 1}$$ を持つので $${A + Bi}$$。
    • 特殊解 $${e_i^{(p)}}$$:$${-i^2}$$ など、定数差分(ここでは $${-2}$$ )を満たす形。
    • 一般解 $${e_i = e_i^{(h)} + e_i^{(p)}}$$、境界条件で定数 $${A, B}$$ を決定。

    数列の漸化式と同じ枠組みです。確率の問題で漸化式を解くときは、 「差分方程式の解法を知っているか」が直接答えにつながる ことが多いので、復習しておくと役立ちます。

    練習問題

    数直線上の位置 $${i}$$( $${0\le i\le 5}$$ )に駒があり、確率 $${\frac{1}{2}}$$ で右に $${+1}$$、 $${\frac{1}{2}}$$ で左に $${-1}$$ 動く。位置 $${0}$$ または $${5}$$ に到達したら終了。位置 $${2}$$ から始めたときの期待試行回数を求めよ。

    公式 $${e_i = i(n - i)}$$ に $${i = 2, n = 5}$$ を入れて

    $$
    e_2 = 2\cdot 3 = 6.
    $$

    平均6回で端まで到達、という結果。これは公式に当てはめるだけで一瞬で出ます。

    補足:非対称な遷移

    「左に行く確率が $${p}$$、右に行く確率が $${q = 1 - p}$$」の場合、漸化式は

    $$
    e_i = 1 + p e_{i-1} + q e_{i+1}
    $$

    となり、解は少し複雑になります。 $${p = q = \frac{1}{2}}$$ の対称な場合だけ $${e_i = i(n - i)}$$ という綺麗な形になる、というのが本記事のメインです。入試では対称な場合が大半なので、 $${e_i = i(n - i)}$$ を覚えておけば十分です。

    次に読む記事

    次回は、 2人じゃんけんで決着するまでの回数 を漸化式で扱います。「あいこになったらやり直し」型の問題で、初期状態に戻る発想を、別の角度から再確認します。

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