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【期待値マスター講座41】京大1997年数学 で期待値と勝率が逆転する名問を解く
この記事では、京都大学1997年度(前期)理系第5問を扱います。
期待値と勝率の不一致を正面から問うた有名問題で、 ${E_A > E_B}$ なのに ${P_A < P_B}$ となる ${p}$ の帯が存在することを、計算で示します。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
問題
箱の中に $${1}$$ と書かれたカードと $${3}$$ と書かれたカードが合計 $${N}$$ 枚入っている。1回の試行で、箱の中からでたらめに1枚のカードを取り出し、その数字を見た上で、箱の中に戻す。
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A、B 2人がそれぞれ試行を2回または3回行って、その間に取り出したカードに書かれている数の合計が大きい方を勝ちとするゲームを行う。ただし、1人が3回の試行を行って、取り出した数の合計が7または9の場合には、その人の得点は $${0}$$ とする規則である。
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そこでA、Bはそれぞれ次の作戦でゲームを行うことにした。
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・A:2回目までの合計が2のときは3回目を行い、4または6のときは3回目を行わない。
・B:2回目までの合計が2または4のときは3回目を行い、6のときは3回目を行わない。
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$${1}$$ と書かれたカードの枚数を $${n\ (0<n<N)}$$ とし、 $${p = \frac{n}{N}}$$ とする。
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(1) Aの得点の期待値 $${E_A}$$、Bの得点の期待値 $${E_B}$$ をそれぞれ $${p}$$ で表せ。また、 $${E_A > E_B}$$ となるための $${p}$$ の条件を求めよ。
(2) Aの勝つ確率を $${P_A}$$、Bの勝つ確率を $${P_B}$$ とするとき、「 $${E_A > E_B}$$ ならば $${P_A > P_B}$$」といえるか?
設定がやや複雑ですが、要は 「2回または3回引いて合計を出す」、ただし3回目を引くかどうかは、2回目までの合計に応じた作戦による 、というゲームです。Aは慎重派(合計が大きいときは引かない)、Bは積極派(4でも3回目を引く)。
設定の整理
復元抽出なので、毎回 $${P(X_i = 1) = p, P(X_i = 3) = q = 1 - p}$$。 $${X_1, X_2, X_3}$$ は独立。
2回目までの合計 $${S_2 = X_1 + X_2}$$ は $${{2, 4, 6}}$$ のいずれか。
- $${S_2 = 2}$$(両方1):確率 $${p^2}$$
- $${S_2 = 4}$$(1+3 or 3+1):確率 $${2pq}$$
- $${S_2 = 6}$$(両方3):確率 $${q^2}$$
Aは $${S_2 = 2}$$ のみ3回目を行う。Bは $${S_2 = 2}$$ と $${S_2 = 4}$$ で3回目を行う。
3回目の合計 $${S_3 = S_2 + X_3}$$ について、
- $${S_2 = 2 \to S_3 = 3}$$ または $${5}$$(規則の「7または9」には該当しない)
- $${S_2 = 4 \to S_3 = 5}$$ または $${7}$$( $${7}$$ になると得点0)
(1) Aの得点分布と期待値
Aは $${S_2 \in {4, 6}}$$ なら3回目を行わず $${S_2}$$ がそのまま得点、 $${S_2 = 2}$$ なら3回目を行い $${S_3 \in {3, 5}}$$ が得点。
$${X_A}$$ の分布:
- $${X_A = 3}$$:$${S_2 = 2}$$ かつ $${X_3 = 1}$$、確率 $${p^2 \cdot p = p^3}$$
- $${X_A = 4}$$:$${S_2 = 4}$$、確率 $${2pq}$$
- $${X_A = 5}$$:$${S_2 = 2}$$ かつ $${X_3 = 3}$$、確率 $${p^2 \cdot q = p^2 q}$$
- $${X_A = 6}$$:$${S_2 = 6}$$、確率 $${q^2}$$
確率の和:$${p^3 + 2pq + p^2 q + q^2 = p^2(p + q) + 2pq + q^2 = p^2 + 2pq + q^2 = (p + q)^2 = 1}$$ で整合。
期待値は
$$
\begin{aligned}
E_A
&= 3 p^3 + 4\cdot 2pq + 5 p^2 q + 6 q^2 \\
&= 3p^3 + 8pq + 5p^2 q + 6q^2.
\end{aligned}
$$
$${q = 1 - p}$$ を代入して整理すると(途中計算は省略)
$$
E_A = 6 - 4p + 3p^2 - 2p^3.
$$
(1) Bの得点分布と期待値
Bは $${S_2 = 6}$$ のみ3回目を行わない。 $${S_2 \in {2, 4}}$$ では3回目を行う。
$${S_2 = 4}$$ で $${X_3 = 3}$$ なら $${S_3 = 7}$$ で得点 $${0}$$ になる。
$${X_B}$$ の分布:
- $${X_B = 0}$$:$${S_2 = 4}$$ かつ $${X_3 = 3}$$、確率 $${2pq \cdot q = 2pq^2}$$
- $${X_B = 3}$$:$${S_2 = 2}$$ かつ $${X_3 = 1}$$、確率 $${p^3}$$
- $${X_B = 5}$$:$${S_2 = 2}$$ かつ $${X_3 = 3}$$、または $${S_2 = 4}$$ かつ $${X_3 = 1}$$、確率 $${p^2 q + 2pq \cdot p = 3p^2 q}$$
- $${X_B = 6}$$:$${S_2 = 6}$$、確率 $${q^2}$$
期待値は
$$
\begin{aligned}
E_B
&= 0 \cdot 2pq^2 + 3 p^3 + 5 \cdot 3p^2 q + 6 q^2 \\
&= 3p^3 + 15 p^2 q + 6q^2.
\end{aligned}
$$
$${q = 1 - p}$$ を代入して整理すると
$$
E_B = 6 - 12p + 21p^2 - 12p^3.
$$
(1) $${E_A > E_B}$$ の条件
差を取ります。
$$
\begin{aligned}
E_A - E_B
&= (6 - 4p + 3p^2 - 2p^3) - (6 - 12p + 21p^2 - 12p^3) \\
&= 8p - 18p^2 + 10p^3 \\
&= 2p(5p^2 - 9p + 4) \\
&= 2p(p - 1)(5p - 4).
\end{aligned}
$$
$${0 < p < 1}$$ では $${2p > 0}$$、 $${p - 1 < 0}$$ なので、 $${E_A > E_B}$$ の符号は $${5p - 4}$$ の 逆符号 で決まり
$$
E_A > E_B \iff 5p - 4 < 0 \iff 0 < p < \frac{4}{5}.
$$
つまり、 $${0 < p < \frac{4}{5}}$$ ではAの期待値が大きい 。
(2) 勝率の比較
$${X_A}$$ と $${X_B}$$ は独立(AとBで別々の試行)です。同時分布から $${P_A - P_B = P(X_A > X_B) - P(X_A < X_B)}$$ を計算します。
途中計算(場合分けと打ち消し)を経て、整理すると
$$
P_A - P_B = 2p^2 q^2 (p^2 - 4p + 2).
$$
$${0 < p < 1}$$ では $${2p^2 q^2 > 0}$$ なので、符号は $${p^2 - 4p + 2}$$ で決まります。
$${p^2 - 4p + 2 = 0}$$ の解は $${p = 2 \pm \sqrt{2}}$$ で、 $${0 < p < 1}$$ の範囲では $${p = 2 - \sqrt{2}\approx 0.586}$$ が境界。 $${p < 2 - \sqrt{2}}$$ で $${p^2 - 4p + 2 > 0}$$、 $${p > 2 - \sqrt{2}}$$ で $${p^2 - 4p + 2 < 0}$$。
したがって
$$
P_A > P_B \iff 0 < p < 2 - \sqrt{2}.
$$
結論:命題は偽
$${E_A > E_B}$$ の境界は $${p = \frac{4}{5} = 0.8}$$、 $${P_A > P_B}$$ の境界は $${p = 2 - \sqrt{2}\approx 0.586}$$。
$${2 - \sqrt{2} < \frac{4}{5}}$$ なので、
$$
2 - \sqrt{2} < p < \frac{4}{5}
$$
の帯では、 $${E_A > E_B}$$ かつ $${P_A < P_B}$$ という、両者が 逆向き の状態が成立します。
したがって命題「 $${E_A > E_B \Rightarrow P_A > P_B}$$」は 成り立ちません 。反例として、たとえば $${p = \frac{7}{10}}$$ を取れば $${E_A - E_B = 0.21 > 0}$$、 $${P_A - P_B = -0.027\ldots < 0}$$ となり、両者の符号が逆。
数値で確認すると
- $${E_A \approx 3.98, E_B \approx 3.77}$$ :Aの方が期待値は大きい
- $${P_A \approx 0.39, P_B \approx 0.42}$$ :Bの方が勝率は大きい
両者の符号がはっきり逆向きになっています。
結果の読み方
3つの帯に分けて整理すると、
- $${0 < p < 2 - \sqrt{2}}$$(約 $${0.59}$$ 未満):$${E_A > E_B}$$ かつ $${P_A > P_B}$$、期待値も勝率もA有利
- $${2 - \sqrt{2} < p < \frac{4}{5}}$$(約 $${0.59}$$ 〜 $${0.80}$$ ):$${E_A > E_B}$$ かつ $${P_A < P_B}$$、期待値はA、勝率はB
- $${\frac{4}{5} < p < 1}$$:$${E_A < E_B}$$ かつ $${P_A < P_B}$$、期待値も勝率もB有利
中間の帯で 「期待値の高い側が勝率では負ける」逆転 が起きるのが、この問題の見どころです。
直観的に言うと、 $${p}$$ が中くらいだと、Bの得点 $${5}$$ が出やすくなり、Aの $${3, 4, 5}$$ より多く勝つ場面が増えます。けれど、Bの「 $${X_3 = 3}$$ で得点0」という大きな下振れがあって、期待値ではAに負ける、という構造です。
問題が伝えたいこと
この問題の本質は
平均値が高い側が「1回ごとに勝ちやすい側」とは限らない
という、 期待値と勝率の典型的なねじれ です。
ギャンブルやスポーツのアナログで「期待リターンが高い戦略」を選んでも、1試合あたりの勝率は別物。 「長期で勝つ」と「1回で勝つ」を分けて考える ことの大切さを、京大が入試で正面から問うた、というのが大きいです。
第VIII部のまとめ
- 期待値は「長期平均」、勝率は「1回試行の確率」。両者は連動しない
- ハイリスク・ハイリターンの場合、期待値が高くても1回ごとに勝つ確率は低くなることが多い
- 京大1997年(前期)第5問は、両者の乖離を入試で正面から扱った代表例
次の第IX部からは「期待値と漸化式」のテーマに進みます。指示関数・線形性ではなく、状態遷移に応じて期待値そのものについて方程式を立てる、もうひとつの強力な道具を扱います。
次に読む記事
次回から第IX部「漸化式編」です。指示関数による分解で間に合わない、状態が時間とともに変わる問題(ランダムウォーク、ゲーム終了までの回数など)には、漸化式が有効です。まずは漸化式アプローチの全体像から押さえます。
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