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【期待値マスター講座10】 "期待値の線形性"はなぜ道具として「強力」なのか!?

    ゴウカライズ編集部
    30 May, 2026

    この記事では、シリーズ全体の中核となる「期待値の線形性」を最初に紹介します。

    さいころを ${n}$ 回振った目の和の期待値という典型題を、確率分布を求めずに1行で出すところを体験してください。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    言葉だけで言うと

    期待値の線形性は、言葉で書くとたった一行です。

    任意の確率変数 $${X, Y}$$ と実数 $${a, b}$$ について

    $$
    E(aX + bY) = aE(X) + bE(Y).
    $$

    「和の期待値は、期待値の和」。これだけです。証明は次の記事で扱うので、いまはこの式を認めて使うところを見ます。

    線形性が革命的なのは、 どんな確率変数にも、独立性を仮定せずに成立する 点です。第I部で見てきた独立性や無相関の議論は、線形性を使うときには 一切必要ありません 。これは何度強調しても足りないくらい大切な事実です。

    例題:さいころを$n$回振った目の和

    さいころを $${n}$$ 回振り、出た目の和を $${S}$$ とする。 $${E(S)}$$ を求めよ。

    まず、線形性を使わずに解こうとするとどうなるか見ておきます。確率分布 $${P(S=k)}$$ は、 $${n}$$ が大きくなるとどんどん複雑になります。 $${n=2}$$ でも前に書き出したように11通りの値があり、 $${n=3}$$ ではさらに増え、一般の $${n}$$ では場合の数が指数的に膨れます。 事実上、定義通りには手が出ない問題 です。

    ここで線形性を使います。 $${k}$$ 回目に出る目を $${X_k}$$ とおくと、 $${X_k}$$ は $${1, 2, \ldots, 6}$$ を確率 $${\frac{1}{6}}$$ ずつでとるので

    $$
    E(X_k) = \frac{1+2+3+4+5+6}{6} = \frac{7}{2}.
    $$

    求めたい和 $${S}$$ は

    $$
    S = X_1 + X_2 + \cdots + X_n
    $$

    と $${n}$$ 個の確率変数の和に分解できます。期待値の線形性で

    $$
    E(S) = \sum_{k=1}^{n} E(X_k) = n \cdot \frac{7}{2} = \frac{7n}{2}.
    $$

    答えは $${E(S) = \frac{7n}{2}}$$。3行で出ました。

    何が起きたか

    ポイントは2つあります。

    まず、 $${S}$$ そのものの分布を一切求めていない 。 $${P(S=k)}$$ を計算した瞬間はありません。それでも $${E(S)}$$ は出ました。これは、線形性が「全体の確率変数の値ごとに重み付け」ではなく、「部品ごとの期待値を足す」という別ルートで期待値を出せるからです。

    次に、 各回が独立かどうかは一切問われていません 。たまたまさいころを独立に振っているので各 $${X_k}$$ は独立ですが、線形性の議論では独立性を使いませんでした。仮に「2回目以降は1回目の目に依存する」ような複雑な振り方をしても、 $${E(X_k)=\frac{7}{2}}$$ が成り立つ限り(独立性に関係なく $${X_k}$$ の確率分布が同じなら)、答えは同じ $${\frac{7n}{2}}$$ になります。

    これが「線形性は強力」と繰り返し言われる理由です。

    戦略:求めたい量を「小さな部品の和」に分解する

    線形性が効くときの定石は、次の手順です。

    1. 求めたい確率変数 $${X}$$ を、期待値が簡単に出る小さな部品 $${X_1, X_2, \ldots, X_n}$$ の和に書き換える。
    2. 各部品 $${X_k}$$ の期待値を、それぞれ計算する。
    3. 線形性 $${E(X) = \sum_k E(X_k)}$$ で和を取る。

    たとえば、上のさいころの例では、

    • 全体の和 $${S}$$ という1つの確率変数を、
    • 各回の目 $${X_1, \ldots, X_n}$$ という $${n}$$ 個の部品に分解し、
    • 各 $${X_k}$$ の期待値はすぐ $${\frac{7}{2}}$$ と分かるので、
    • 線形性で和を取る、

    という流れでした。

    シリーズ第IV部で扱う 指示関数 は、この「部品」を $${0/1}$$ 値の確率変数として作る道具です。指示関数と線形性を組み合わせると、入試で出る期待値問題のほとんどに対応できます。

    補足:線形性が出てくる場面

    線形性が活躍するのは、たとえば次のような場面です。

    • 和の期待値:複数回の試行の目の和、点数の合計
    • 個数の期待値:何回成功したか、何種類集まったか
    • カードの並び:「カード $${k}$$ が間にある」「 $${k}$$ 番目が一致」など、項目ごとに条件を見たいとき
    • 最大値・最小値の期待値: $${X = \sum_k \mathbf{1}_{{X\ge k}}}$$ という分解(tail-sum)を経由するとき

    逆に、線形性が直接効かない場面もあります。 $${E(XY)}$$ や $${E(X^2)}$$、 $${E(\max(X,Y))}$$ などは、「和の形」にはなっていないので、線形性だけでは扱えません。これらをどう処理するかは、第VII部や第VI部で扱います。

    練習問題

    さいころを3回振り、出た目の積を $${X}$$、出た目の和を $${S}$$ とする。 $${E(X)}$$ と $${E(S)}$$ を求めよ。

    $${E(S)}$$ は上の例題と同じく、 $${E(S) = 3\cdot \frac{7}{2} = \frac{21}{2}}$$ です。

    $${E(X)}$$ は、 $${X = X_1 X_2 X_3}$$ と書けます。3回のさいころは独立なので、「独立な確率変数の積の期待値」の公式が使えて

    $$
    E(X) = E(X_1)E(X_2)E(X_3) = \Bigl(\frac{7}{2}\Bigr)^3 = \frac{343}{8}.
    $$

    ここで使ったのは線形性ではなく、独立な確率変数の積の公式です。 和なら線形性で独立性に触れず処理できる、積なら独立性が十分条件として使える という対比を、ここでも確認してください。仮に「3回のさいころが独立でない設計」(たとえば1回目と同じ目だけ出す細工をされたさいころ)なら、 $${E(X) = E(X_1)E(X_2)E(X_3)}$$ は無条件には使えません(厳密には、独立よりも弱い「無相関」で成り立つ場面もあります。詳細は第VII部)。一方、 $${E(S)}$$ のほうは設計が変わってもそのままです。

    次に読む記事

    次回は、線形性の正確なステートメントを書き、 証明の中で独立性を使っていないこと を、その場で確かめます。証明は短いので、いったん読んでおくと「なぜ独立性が要らないのか」が腑に落ちます。

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