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【期待値マスター講座09】"期待値"と"平均値"を混同していませんか?

    ゴウカライズ編集部
    30 May, 2026

    この記事では、日常では混同されがちな「期待値」と「平均値」の違いを、定義から押さえます。「サイコロの目の平均は ${3.5}$ 」のような言い方がいつ正しいのかを、確率の重みつき例題で確認します。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    「平均」と「期待値」は何が違うか

    日常会話では、 平均値期待値 が同じ意味で使われがちです。「平均すると100点くらい」「期待値は3.5」のような言い方は、どちらも「だいたい真ん中の値」を指しているように聞こえます。

    数学的にはこの2つは区別されます。

    • 平均値 :あらかじめ与えられた 確定した有限個のデータ $${a_1, a_2, \ldots, a_n}$$ に対して定義される量

    $$
    \bar a = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} a_i.
    $$

    • 期待値確率変数 に対して定義される量

    $$
    E(X) = \sum_{i=1}^{n} x_i \cdot P(X=x_i).
    $$

    平均値はデータ点を全部足して個数で割るだけです。期待値は「値ごとに、起こりやすさで重みづけして足す」もの。 重みが違うと、期待値は単純な平均とずれます

    いつ一致するか

    定理として、 $${X}$$ が値 $${x_1, \ldots, x_n}$$ をすべて確率 $${\frac{1}{n}}$$ でとるとき、

    $$
    E(X) = \sum_{i=1}^{n} x_i \cdot \frac{1}{n} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i = \bar x
    $$

    となり、期待値が平均値に一致します。これは定義の $${p_i}$$ を $${\frac{1}{n}}$$ にしただけです。

    つまり、 すべての値が等確率なら、期待値は値の単純平均に必ず一致 します。さいころの目が $${1,\ldots,6}$$ をそれぞれ確率 $${\frac{1}{6}}$$ でとるという前提があるからこそ、 $${E(X)=\frac{1+2+\cdots+6}{6}=\frac{7}{2}}$$ と「目の平均」で書ける、というわけです。

    逆向きは少し弱く、 等確率でなくても偶然に単純平均と一致することはあります 。たとえば $${P(X=0)=\frac{1}{4}, P(X=1)=\frac{1}{2}, P(X=2)=\frac{1}{4}}$$ という分布は等確率ではありませんが、 $${E(X)=1}$$ で値の単純平均 $${\frac{0+1+2}{3}=1}$$ と一致します。「値だけを平均してよい十分条件」として等確率性を確認するのが安全、という言い方が正確です。

    例題:期待値と平均がずれる場面

    表が出ると100円もらえ、裏が出ると何ももらえないコインを考える。ただし表が出る確率が $${0.9}$$、裏が $${0.1}$$ とする。もらえる金額を確率変数 $${X}$$ とするとき、 $${E(X)}$$ を求めよ。また「もらえる金額は0円か100円で、その平均は50円」と書くのはなぜ誤りか説明せよ。

    期待値は定義通り

    $$
    E(X) = 100\cdot 0.9 + 0\cdot 0.1 = 90.
    $$

    「もらえる金額は0円と100円で、その平均は50円」という書き方が誤りなのは、 0円と100円に「起こりやすさの違い」がある からです。

    平均50円は「0円と100円という2つの値そのものの算術平均」ですが、現実には100円が9割の確率で出るので、結果としての金額の平均は90円に寄ります。 値の集合の平均確率変数の期待値 は別の話、と整理してください。

    サイコロの「目の平均は3.5」が正しい理由

    逆に、 $${E(X) = \frac{1+2+\cdots+6}{6} = 3.5}$$ という言い方が許されるのは、 $${1,\ldots,6}$$ が 全部等確率 で出るからです。等確率という条件がついていなければ、「値の単純平均」を期待値と呼んではいけません。

    入試では「不公平なさいころで、1が出やすい」のような設定もあります。そのときの期待値は単純平均ではなく、必ず $${\sum_k k\cdot P(X=k)}$$ を書いて計算します。

    場合の数で言い換えると

    「すべての値が等確率」というのは、場合の数で見たときの 「全事象が同じ重さ」 に対応します。

    たとえば、 $${\{1,\ldots,n\}}$$ から重複なく $${k}$$ 個を同時に取り出して和を作るような問題では、 $${\binom{n}{k}}$$ 通りの組合せがすべて等確率です。このとき、「全組合せの和の総和を組合せ数で割る」が期待値の計算になります。

    ただし、 取り出した個別の値が等確率 とはなりません。たとえば最大値や最小値のように、組合せの中での位置に依存する量は、等確率な値はとらないので、 $${E(M) = \frac{1+2+\cdots+n}{n}}$$ のような単純な計算では出ません。最大値の期待値については、第VI部で詳しく扱います。

    補足:期待値は「無限回試行したときの平均」ではない

    直観的な説明として、「期待値は、試行を無限回繰り返したときの平均値の極限」とよく言われます。これは大数の法則と呼ばれる定理が成立する場面で正しい主張ですが、 期待値の定義そのものではありません

    期待値は、たった1回の試行に対しても定義される量です。「実際に何回も試行したらどうなるか」と「期待値そのものの値」は、別の概念として理解しておいてください。

    第VIII部「期待値と勝率は違う」で扱う題材も、この区別と密接に関係します。1回の対戦では期待値が高いほうが勝つとは限らない、というのは、期待値が「長期平均の予想」であって「1回の対戦の勝敗」ではないという事実から来ています。

    練習問題

    確率分布が
    ・$${P(X=0)=\frac{1}{2}}$$
    ・$${P(X=1)=\frac{1}{4}}$$
    ・$${P(X=2)=\frac{1}{4}}$$
    である確率変数 $${X}$$ について、 $${E(X)}$$ を求めよ。また「 $${X}$$ がとる値は $${0,1,2}$$ なので、その平均は $${1}$$」と書くのが誤りである理由を述べよ。

    期待値は

    $$
    E(X) = 0\cdot \frac{1}{2} + 1\cdot \frac{1}{4} + 2\cdot \frac{1}{4} = \frac{3}{4}.
    $$

    「平均は1」が誤りなのは、 $${X=0}$$ の確率が $${X=1}$$ や $${X=2}$$ の確率の2倍あり、 重みが均等でない からです。

    等確率なら $${\frac{0+1+2}{3}=1}$$ で正しいのですが、いまは $${X=0}$$ の重みが大きいので、期待値は $${\frac{3}{4}}$$ と $${0}$$ 寄りになります。

    シリーズ第I部のまとめ

    ここまでで、確率の枠組み、確率変数、確率分布、独立性、無相関、期待値の定義、平均値との違いを押さえました。

    土台として確認しておきたいのは次の点です。

    • 確率を考えるときは、まず「何の試行か」を決め、標本空間 $${\Omega}$$ と事象 $${A\subset\Omega}$$ の関係で書く。
    • 確率変数 $${X}$$ は試行結果に数を割り当てる関数。確率分布は「 $${X}$$ が何を、どの確率でとるか」の対応表。
    • 独立は「同時分布が積に分解できる」こと。pairwise と mutually は別の概念。
    • 独立 $${\Rightarrow}$$ 無相関だが、逆は一般には成り立たない。
    • 期待値は確率変数に対して定義され、 $${E(X)=\sum_k x_k P(X=x_k)}$$。等確率の場合だけ平均値と一致する。

    次の第II部からはいよいよ、シリーズ全体の中核となる 期待値の線形性 に入ります。「和の期待値は期待値の和」というたった一行が、独立性を仮定せずに常に成り立つ。この事実が、入試の期待値問題のほとんどに通用する強力な道具になります。

    次に読む記事

    次回は、期待値の線形性のあらまし。さいころを $${n}$$ 回振った目の和の期待値という典型題を、線形性で1行で出してみせます。「分布を求めずに済む」という発想転換を体験してください。

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