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【期待値マスター講座16】復元抽出の期待値をマスター! 〜線形性と独立性〜
この記事では、引いたら戻す「復元抽出」での合計点の期待値を、線形性で出してみます。
各回が独立な確率変数になるので、計算は非常にすっきり進みます。
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シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。
https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb
復元抽出とは
「袋から引いて、毎回戻す」操作を 復元抽出 と呼びます。1回ごとに袋の中身が初期状態に戻るので、各回は独立な試行になります。
復元抽出は次の節で扱う非復元抽出との対比のために、まずきれいに押さえておきたい設定です。なぜなら、 復元では独立性まで自動的に成立する ため、線形性も独立性が要る公式も、両方が同時に使える状況になるからです。
例題:復元抽出での合計点
1から $${n}$$ までの番号が書かれたカード各々1枚が袋に入っている。1枚引いて番号を記録し、戻すという操作を $${m}$$ 回繰り返す。記録された数の和を $${S}$$ とするとき、 $${E(S)}$$ を求めよ。
$${k}$$ 回目に引いた数を $${X_k}$$ とします。 $${X_k}$$ は $${1, 2, \ldots, n}$$ を等確率 $${\frac{1}{n}}$$ でとるので
$$
E(X_k) = \frac{1 + 2 + \cdots + n}{n} = \frac{n+1}{2}.
$$
求めたい和は
$$
S = X_1 + X_2 + \cdots + X_m.
$$
線形性から
$$
E(S) = \sum_{k=1}^{m} E(X_k) = m\cdot \frac{n+1}{2} = \frac{m(n+1)}{2}.
$$
答えは $${E(S) = \frac{m(n+1)}{2}}$$ です。
独立性は使わなかった、けれど
ここで強調しておきたいのは、 期待値 $${E(S)}$$ の計算には独立性を使っていない ことです。 $${X_1, X_2, \ldots, X_m}$$ が独立であろうとなかろうと、各 $${X_k}$$ の期待値が $${\frac{n+1}{2}}$$ なら、和の期待値は線形性で出ます。
復元抽出の利点は別のところにあります。 分散の計算 や、後で出てくる「2回の値が同じになる確率」のような 非線形量 を計算するときに、独立性が決定的に効きます。
たとえば、 $${V(S) = V(X_1 + \cdots + X_m)}$$ について、 $${X_k}$$ たちが独立(または無相関)なら
$$
V(S) = \sum_{k=1}^{m} V(X_k)
$$
と分散が綺麗に和に分解できます。これは第VII部で扱いますが、ここで覚えておきたいのは「復元抽出では和の期待値だけでなく分散も和に分解できる」ということです。
直接の確認(小さな例)
$${n = 3, m = 2}$$ の場合で、公式と直接計算を突き合わせてみます。
復元抽出なので、組 $${(i, j)}$$( $${i, j\in{1, 2, 3}}$$ )は9通り、それぞれ確率 $${\frac{1}{9}}$$。
$${S = i + j}$$ の値と確率を書き出すと
- $${S = 2}$$ : $${(1,1)}$$、確率 $${\frac{1}{9}}$$
- $${S = 3}$$ : $${(1,2), (2,1)}$$、確率 $${\frac{2}{9}}$$
- $${S = 4}$$ : $${(1,3), (2,2), (3,1)}$$、確率 $${\frac{3}{9}}$$
- $${S = 5}$$ : $${(2,3), (3,2)}$$、確率 $${\frac{2}{9}}$$
- $${S = 6}$$ : $${(3,3)}$$、確率 $${\frac{1}{9}}$$
定義通り
$$
E(S) = \frac{1\cdot 2 + 2\cdot 3 + 3\cdot 4 + 2\cdot 5 + 1\cdot 6}{9} = \frac{2+6+12+10+6}{9} = \frac{36}{9} = 4.
$$
一方、公式 $${E(S) = \frac{m(n+1)}{2}}$$ に $${m=2, n=3}$$ を入れて $${\frac{2\cdot 4}{2} = 4}$$。一致しました。
復元抽出の特徴をまとめる
復元抽出は次の3点で扱いやすいです。
- 各回が 独立同分布 (iid)の確率変数になる
- 線形性で和の期待値が瞬時に出る
- 独立性が必要な公式(積、分散、共分散)も無条件で使える
逆に言うと、復元抽出だけ見ていると「期待値は独立性に依存しないんだ」という第II部のメッセージはあまり実感されません。次の非復元抽出を見ると、線形性のありがたみが際立ちます。
練習問題
さいころを $${m}$$ 回振り、出た目の和を $${S}$$ とする。 $${E(S)}$$ を求めよ。さらに、出た目の積を $${T}$$ とするとき、 $${E(T)}$$ も求めよ。
$${S}$$ について:各回のさいころの目を $${X_k}$$ とすると $${E(X_k) = \frac{7}{2}}$$。線形性で
$$
E(S) = m\cdot \frac{7}{2} = \frac{7m}{2}.
$$
$${T = X_1 X_2 \cdots X_m}$$ について:さいころの各回は独立なので、独立な確率変数の積の期待値の公式が使えて
$$
E(T) = E(X_1)\cdot E(X_2)\cdots E(X_m) = \Bigl(\frac{7}{2}\Bigr)^m.
$$
$${E(S)}$$ の計算には独立性は使いませんでしたが、 $${E(T)}$$ の計算では独立性が効いています。 和の期待値は線形性、積の期待値は独立性(または無相関性) という対比が、復元抽出ではきれいに見えます。
次に読む記事
次回は、引いたら戻さない 非復元抽出 での合計点の期待値を扱います。各回が独立でなくなるので、 $${E(T)}$$ のような積の期待値は別の話になります。ところが、 和の期待値だけは復元と同じ式 になる、というのが見どころです。線形性が独立性に依存しない事実が、ここで実感として効いてきます。
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