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【期待値マスター講座20】指示関数で「何種類出るか」を一瞬で求める

    ゴウカライズ編集部
    1 June, 2026

    この記事では、第IV部の導入として、指示関数の威力をひとつの例で先に見ます。

    さいころを ${n}$ 回振って出た目の種類数の期待値を、定義通りでは厳しいルートと、指示関数を使う2行ルートの両方で比べてみます。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    種類数の期待値、と聞いて手が止まる

    1から6までの番号がついたカード各々1枚が袋に入っている。1枚引いて番号を見て戻すという試行を $${n}$$ 回繰り返す。このうち少なくとも1回は出た番号の種類数を $${X}$$ とする。 $${E(X)}$$ を求めよ。

    「種類数」と言われた瞬間に、 $${X}$$ の確率分布をどう書くか考え始めると、 包除原理 が必要になり、式が一気に重くなります。

    たとえば $${P(X = k)}$$ を直接書くと

    $$
    P(X = k) = \binom{6}{k}\sum_{j=0}^{k}(-1)^j \binom{k}{j}\Bigl(\frac{k-j}{6}\Bigr)^n
    $$

    という、二重和の式が出てきます。これに $${k}$$ を掛けて和を取れば期待値は出ますが、 入試の現場で書きたい計算ではありません

    指示関数を使うと2行で終わる

    別ルートを見ます。 $${k\in{1, 2, \ldots, 6}}$$ について

    $$
    I_k = \begin{cases} 1 & (n \text{ 回中に少なくとも1回は } k \text{ が出た}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
    $$

    とおきます。 $${I_k}$$ は「番号 $${k}$$ が現れたか?」を $${0/1}$$ で表す確率変数です。

    出た番号の種類数は、それぞれの番号について「現れたか?」を足し上げたものなので

    $$
    X = \sum_{k=1}^{6} I_k.
    $$

    ここまでが第1段。次に各 $${I_k}$$ の期待値を出します。

    「 $${k}$$ が一度も出ない確率」は、毎回 $${k}$$ 以外の5通りが出る確率 $${\frac{5}{6}}$$ を $${n}$$ 回独立に掛けて $${\bigl(\frac{5}{6}\bigr)^n}$$ なので

    $$
    E(I_k) = P(I_k = 1) = 1 - \Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^n.
    $$

    線形性で和を取って

    $$
    E(X) = \sum_{k=1}^{6} \left(1 - \Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^n\right) = 6\left(1 - \Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^n\right).
    $$

    答えは $${E(X) = 6\left(1 - \bigl(\frac{5}{6}\bigr)^n\right)}$$。

    何が起きたか

    ポイントは、 「種類数」という1つの数を、種類ごとに「現れたか?」という $${0/1}$$ 変数に分解した ことです。

    包除原理を経由する正攻法は、 $${X = k}$$ の確率を直接求めようとして式が膨らみます。一方、指示関数は「個別の番号ごとに、現れたかどうか」だけを見るので、各部品の期待値が 余事象 から簡単に出ます。

    ここでも $${I_1, I_2, \ldots, I_6}$$ は互いに独立ではありません。たとえば「6が一度も出なかった」と分かれば、 $${n}$$ 回の試行は1〜5の5択に絞られ、他の数字が出る確率が上がります。けれど、期待値の線形性は独立性を要求しないので、何の問題もなく和が取れます。

    「種類数」「個数」を $${0/1}$$ の和に分解する

    ここで強調しておきたいのは、 指示関数の使い方のエッセンス です。

    「種類数」「個数」「成功回数」「ヒット数」のように、 何かを数える量 は、 個々の対象が条件を満たすかどうかの $${0/1}$$ の和 に分解できます。一般化すると

    $$
    \text{数えたい量} = \sum_{k} \mathbf{1}_{{\text{$${k}$$ が条件を満たす}}}.
    $$

    両辺の期待値を取れば

    $$
    E(\text{数えたい量}) = \sum_k P(\text{$${k}$$ が条件を満たす}).
    $$

    「数えたい量の期待値は、個別の確率を足したもの」 ── これが指示関数 + 線形性で得られる、入試で何度も使う基本式です。

    直接の確認($${n=2}$$ の小さな例)

    $${n = 2}$$ で確認します。公式に入れて

    $$
    E(X) = 6\left(1 - \Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^2\right) = 6\cdot \frac{11}{36} = \frac{66}{36} = \frac{11}{6}\approx 1.83.
    $$

    直接見ます。2回の目の組 $${(i, j)}$$ は36通り、それぞれ確率 $${\frac{1}{36}}$$。

    • $${i = j}$$(ゾロ目):種類数1。6通り
    • $${i \ne j}$$:種類数2。30通り

    定義通り

    $$
    E(X) = \frac{1\cdot 6 + 2\cdot 30}{36} = \frac{66}{36} = \frac{11}{6}.
    $$

    公式と一致しました。

    練習問題

    さいころを $${n}$$ 回振ったとき、1の目が一度も出ない確率と、1の目と2の目のどちらも一度も出ない確率を求めよ。さらに、「1から6のうち、一度も出なかった目」の種類数 $${Y}$$ の期待値を求めよ。

    1の目が一度も出ない確率は $${\bigl(\frac{5}{6}\bigr)^n}$$、1も2も一度も出ない確率は $${\bigl(\frac{4}{6}\bigr)^n = \bigl(\frac{2}{3}\bigr)^n}$$。

    $${Y}$$ は「現れなかった種類数」で、 $${k\in{1, \ldots, 6}}$$ について

    $$
    J_k = \begin{cases} 1 & (k \text{ が一度も出なかった}) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}
    $$

    とおくと $${Y = \sum_{k=1}^{6} J_k}$$。 $${P(J_k = 1) = \bigl(\frac{5}{6}\bigr)^n}$$ なので

    $$
    E(Y) = 6\cdot \Bigl(\frac{5}{6}\Bigr)^n.
    $$

    例題の $${X}$$ と合わせると、 $${X + Y = 6}$$ という関係が常に成り立ち、 $${E(X) + E(Y) = 6\left(1 - \bigl(\frac{5}{6}\bigr)^n\right) + 6\bigl(\frac{5}{6}\bigr)^n = 6}$$ となります。 線形性と「全体は6種類」という当たり前の事実が、整合的に効いている のが見えます。

    次に読む記事

    次回は、ここまで何度も使ってきた指示関数を、いったん腰を据えて定義し、 $${E(I_A) = P(A)}$$ という基本性質を含む計算規則を整理します。集合演算との対応など、後の応用でも使う道具を揃えます。

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