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【期待値マスター講座56】表が連続2回出るまで平均6回 (講座総まとめ・大学入試数学)

    ゴウカライズ編集部
    10 June, 2026

    この記事では、シリーズ最後の自作演習として「公平なコインで表が連続2回出るまで投げ続ける」ときの期待回数を扱います。

    2状態のマルコフ連鎖で漸化式を立てる典型題を解き、その後にシリーズ全56回を総括します。

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    シリーズ全体の流れを先に見たい方は、まず 期待値マスター講座の導入記事 からどうぞ。全56回の構成と読み進め方をまとめています。

    https://note.com/goukalize/n/n9de4e3c6c4fb


    問題

    1個のコインを表が連続して2回出るまで投げ続ける。投げた総回数の期待値 $${E(N)}$$ を求めよ。

    「表が1回出ても、次が裏なら最初からやり直し」という、 直近1回の結果で状態が変わる タイプの問題です。

    状態を「直近1回」で区別する

    状態 $${A}$$:直前が裏、または初回(連続記録ゼロ)
    状態 $${B}$$:直前が表(連続記録1)

    それぞれを起点とする「2連続表までの試行数の期待値」を $${e_A, e_B}$$ とおきます。

    状態 $${A}$$ から

    1回投げて表(確率 $${\frac{1}{2}}$$)なら状態 $${B}$$ へ移行(残り回数の期待値は $${e_B}$$)。裏( $${\frac{1}{2}}$$)なら状態 $${A}$$ に留まる。

    $$
    e_A = 1 + \frac{1}{2} e_B + \frac{1}{2} e_A.
    $$

    状態 $${B}$$ から

    1回投げて表( $${\frac{1}{2}}$$)なら 終了 ( $${0}$$ 回追加)。裏( $${\frac{1}{2}}$$)なら状態 $${A}$$ へ。

    $$
    e_B = 1 + \frac{1}{2}\cdot 0 + \frac{1}{2} e_A.
    $$

    解く

    連立方程式を解きます。

    第1式を整理:$${e_A - \frac{1}{2} e_A = 1 + \frac{1}{2} e_B}$$、$${\frac{1}{2} e_A = 1 + \frac{1}{2} e_B}$$、$${e_A = 2 + e_B}$$。

    第2式に代入:$${e_B = 1 + \frac{1}{2}(2 + e_B) = 1 + 1 + \frac{1}{2} e_B = 2 + \frac{1}{2} e_B}$$、$${\frac{1}{2} e_B = 2}$$、$${e_B = 4}$$。

    したがって $${e_A = 2 + 4 = 6}$$。

    最初は状態 $${A}$$(連続記録なし)から始めるので

    $$
    E(N) = e_A = 6.
    $$

    答えは $${E(N) = 6}$$。

    数値の意味

    「表が2連続するまで平均6回」というのが結論。直観的には、

    • 1回目で連続が始まることはない(最初は $${A}$$ )
    • 2回目で連続することはあるが、確率は $${\frac{1}{4}}$$ (表表)
    • 連続記録1の状態に達するのに平均2回、そこから次が表なら成功(確率 $${\frac{1}{2}}$$ )、裏なら振り出しに戻る

    …と、連続記録の積み上げと崩しの繰り返しで、 平均で6回かかる 、という結果です。

    「初めて表が出るまで」が平均2回(記事44)なのに対して、 2連続表は平均6回 。3倍の手間がかかります。

    一般化:$${k}$$ 連続まで

    $${k}$$ 連続表まで投げ続ける場合の期待回数は

    $$
    E(N_k) = 2^{k+1} - 2.
    $$

    $${k = 1}$$(普通の幾何分布):$${2^2 - 2 = 2}$$ 回(記事44と一致)
    $${k = 2}$$:$${2^3 - 2 = 6}$$ 回(本問)
    $${k = 3}$$:$${2^4 - 2 = 14}$$ 回
    $${k = 4}$$:$${2^5 - 2 = 30}$$ 回

    連続記録を伸ばすたびに、必要な試行回数は 約2倍 になります。これは、 連続記録が崩れたら振り出しに戻る ことの影響で、指数的に膨らみます。

    漸化式アプローチの威力

    この問題を 定義通り に解こうとすると、無限和

    $$
    E(N) = \sum_{k=2}^{\infty} k\cdot P(N = k)
    $$

    になり、 $${P(N = k)}$$ の計算が複雑になります。 $${P(N = k)}$$ は「 $${k-1}$$ 回目までは連続2回が出ず、 $${k}$$ 回目で初めて連続2回出る」確率で、フィボナッチ数列のような構造で表されます。

    ところが、 状態を「直近1回の結果」で2つに分けて漸化式を立てる と、連立1次方程式を解くだけで終わります。 状態空間の大きさを抑える のが、漸化式アプローチの本質です。

    シリーズ全56回の総括

    ここでシリーズ全体を振り返ります。

    第I部 準備編(記事1〜9)

    確率の枠組み、確率変数、確率分布、独立性、無相関、期待値の定義、平均値との違い。

    第II部 線形性編(記事10〜14)

    期待値の線形性 $${E(aX + bY) = aE(X) + bE(Y)}$$。 独立性は要らない という事実が中核。

    第III部 基本問題の演習編(記事15〜19)

    くじ引きの公平性、復元・非復元抽出、袋の中のボール問題。線形性を典型題に乗せる練習。

    第IV部 指示関数の基本編(記事20〜24)

    指示関数 $${I_A = \mathbf{1}_A}$$、 $${E(I_A) = P(A)}$$、 $${X = \sum_k I_k}$$ の分解、tail-sum formula。

    第V部 指示関数の応用編(記事25〜31)

    二項分布、クーポンコレクター、じゃんけんの勝者数、最大値、階段状得点、連続並び、モンモール問題。

    第VI部 最大値・最小値編(記事32〜35)

    $${E(\max)\ne \max(E)}$$、独立同分布の分布の積分解、tail-sum、順序統計量。

    第VII部 成り立たない性質編(記事36〜39)

    分散、独立な確率変数の積、共分散、Jensen不等式。 「独立性は十分条件、必要条件は無相関」 という整理。

    第VIII部 期待値と勝率は違う編(記事40〜41)

    ハイリスク・ハイリターン、京大1997年(前期)第5問の名問題。

    第IX部 漸化式編(記事42〜47)

    漸化式アプローチ、モンモール数 $${D_n = (n-1)(D_{n-1} + D_{n-2})}$$、ランダムウォーク $${e_i = i(n - i)}$$ ほか。

    第X部 入試問題総合演習編(記事48〜53)

    鹿児島大2024、東北大2025、一橋大2012、慶應医2025、京大2026、昭和医2019の6題。

    第XI部 仕上げ編(記事54〜56)

    自作演習3題で道具の運用を最終確認。

    4つの中心的な道具

    シリーズで身につけた道具を、改めて整理します。

    1. 期待値の線形性 :$${E(\sum a_k X_k) = \sum a_k E(X_k)}$$。独立性不要。
    2. 指示関数による分解 :$${X = \sum_k I_{A_k}}$$、 $${E(X) = \sum_k P(A_k)}$$。
    3. tail-sum formula :$${E(X) = \sum_k P(X\ge k)}$$。最大値・最小値の問題で頻出。
    4. 漸化式アプローチ :$${e_s = 1 + \sum_{s'} p_{ss'} e_{s'}}$$。状態遷移・停止時刻の問題で。

    これらを問題に応じて使い分け、組み合わせるのが、入試の期待値問題を解く道のすべてです。

    道具の判断基準

    問題を見たときの判断基準は、

    • 「数えたい量が $${0/1}$$ の和に書けるか」 → 書ければ線形性 + 指示関数、tail-sum
    • 「状態が時間とともに変わるか」 → 漸化式
    • 「最大値・最小値か」 → tail-sum、独立同分布の積分解
    • 「積や非線形量を扱うか」 → 独立性または無相関を確認、共分散・Jensen不等式

    問題文を読みながら、これらの判断を素早く行えるようになれば、入試の確率問題は 時間内に解ける ようになります。

    受験生に渡したいもの

    このシリーズで一番伝えたかったのは、 「公式を暗記するのではなく、その場で導出できる状態を作る」 姿勢です。

    二項分布の期待値 $${E = np}$$、超幾何分布の $${\frac{rm}{r+w}}$$、幾何分布の $${\frac{1}{p}}$$、最大値の $${\frac{k(n+1)}{k+1}}$$ ── これらは公式として覚えてもいいですが、 指示関数 + 線形性、tail-sum、漸化式の組合せで2〜3行で導ける 状態を作っておくほうが、長期的にはるかに強いです。

    入試本番で「公式を忘れた」「これは習っていない式だ」となっても、 手元の道具から構築できる 。これがシリーズの目指した到達点です。

    おわりに

    期待値の問題は、確率の単元の中で最も応用範囲が広く、入試での頻度も高いテーマです。指示関数と線形性、そして漸化式という、たった2、3個の道具で、京大、東北大、一橋大、慶應医、鹿児島大、昭和医、…という幅広い大学の問題が 同じ枠組みで解けてしまう 、というのが期待値の面白さです。

    このシリーズが、受験勉強の途中で行き詰まったときの 戻ってこられる場所 になれば幸いです。線形性に独立性は要らない、最大値はtail-sum、漸化式は状態遷移──これらを思い出して、もう一度問題に向き合ってみてください。

    期待値の戦い方は、いつでも一行から始まります。

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