イェンゼンの不等式(凸不等式)は、「いくつかの値を平均してから関数に代入した値」と「関数に代入してから平均した値」を比べる定理です。下に凸な関数では前者が後者以下になります。上に凸な関数では大小が逆になります。
この記事では、まず定義と図形的な意味を確認します。続いて、凸・凹の判定方法、微分可能な場合の証明、等号成立条件を順に整理します。最後に、相加相乗平均やヤングの不等式、円に内接する三角形の面積などの例題で使い方を確認します。なお、本文中の ln は自然対数を表します。
イェンゼンの不等式の定義
まずは等しい重みの形
正の整数 n と、区間 I で下に凸な関数 f を考えます。I に属する x1,x2,…,xn に対して、次の不等式が成り立ちます。
f(nx1+x2+⋯+xn) ≤nf(x1)+f(x2)+⋯+f(xn) 左辺は「平均してから代入」した値、右辺は「代入してから平均」した値です。たとえば f(x)=x2, n=2 とすると、よく知られた次の不等式になります。
(2x1+x2)2≤2x12+x22 重み付きの一般形
平均の重みは均等でなくてもかまいません。重み w1,…,wn が次の条件を満たすとします。
wi≥0(i=1,…,n),i=1∑nwi=1 このとき、区間 I で下に凸な f について、次が成り立ちます。
f(i=1∑nwixi)≤i=1∑nwif(xi) wi=n1 とすれば、前の形に戻ります。重みは0以上で、合計が1でなければなりません。負の重みを入れた場合、この不等式が成り立つ保証はありません。
また、重み付き平均 ∑wixi は、xi の最小値と最大値の間にあります。そのため、区間 I からはみ出すことはありません。
上に凸(凹)な関数では向きが逆
f が区間 I で上に凸(凹関数)の場合は、同じ条件のもとで不等号の向きが逆になります。
f(i=1∑nwixi)≥i=1∑nwif(xi) これは、−f が下に凸になることから、下に凸の場合の結果をそのまま使って導けます。
図形的な意味:グラフは弦の下にある
2点の場合で考えてみましょう。下に凸であることの定義は、I 内の x,y と 0≤θ≤1 に対して、次の不等式が成り立つことです。
f(θx+(1−θ)y)≤θf(x)+(1−θ)f(y) 右辺は、グラフ上の2点 (x,f(x)) と (y,f(y)) を結ぶ線分(弦)上の点の高さを表しています。つまりこの式は、「x と y の間では、下に凸なグラフは弦の下側にある」という見た目の性質を式で表したものです。これが2点版のイェンゼンの不等式にあたります。
凸・凹の判定:二階微分の符号を見る
入試で扱う関数の多くは二階微分可能です。その場合は、次の判定法が便利です。
- 区間 I で f′′(x)≥0 なら、f は下に凸
- f′′(x)≤0 なら、上に凸
- f′′(x)>0(または f′′(x)<0)なら、厳密に下に凸(厳密に上に凸)
代表的な関数で確認しておきましょう。
- x2:実数全体で f′′(x)=2>0 なので、厳密に下に凸
- lnx:x>0 で f′′(x)=−x21<0 なので、厳密に上に凸
- sinx:0<x<π で f′′(x)=−sinx<0 なので、厳密に上に凸
イェンゼンの不等式は、同じ凹凸が続く区間の中でしか使えない点に注意してください。たとえば sinx は π<x<2π では下に凸です。そのため、π をまたぐ値に上の向きの不等式をそのまま使うことはできません。また、lnx に0や負の数を代入することもできません。
等号成立条件
等号成立条件は「すべての xi が等しいとき」とよく言われます。しかし、これはどんな凸関数でも正しいわけではありません。
- f が厳密に下に凸(または厳密に上に凸)で、重みがすべて正の場合、等号が成り立つのは x1=x2=⋯=xn のときだけです。
- 重みが0の項は、左辺にも右辺にも影響しません。そのため、等号条件を考えるときはこれらの項を除外します。正の重みをもつ xi がすべて等しければ、等号が成り立ちます。
- 一次関数 f(x)=ax+b は、下に凸でも上に凸でもあります。この場合、xi の値に関係なく常に等号が成り立ちます。
答案で等号条件を書くときは、使う関数が厳密に凸(凹)であること、重みが正であることを確かめておくと安心です。
証明(f が微分可能な場合)
ここでは、開区間 I で微分可能かつ下に凸な f について証明します。これは微分可能な場合に限った証明です。微分できない凸関数も含めて示すには、定義から帰納法で示すなどの別の方法が必要です。
ステップ1:接線不等式
下に凸で微分可能な関数のグラフは、どの点で引いた接線よりも上(または接線上)にあります。式で書くと、I 内の点 m に対して次が成り立ちます。
f(x)≥f(m)+f′(m)(x−m)(x∈I) 微分可能な凸関数では、導関数 f′ は単調非減少です(二階微分可能な場合は f′′≥0 からも確認できます)。この性質から接線不等式を導きます。平均値の定理により、x と m の間の c を用いて f(x)−f(m)=f′(c)(x−m) と書けます。x>m でも x<m でも f′(c)(x−m)≥f′(m)(x−m) となるので、接線不等式が得られます。
ステップ2:重みを付けて足し合わせる
m=∑wixi とおきます。前に確認したとおり、m は I に含まれます。接線不等式に x=xi を代入し、両辺に wi≥0 を掛けてから、i について足し合わせます。
i=1∑nwif(xi)≥f(m)i=1∑nwi +f′(m)(i=1∑nwixi−mi=1∑nwi) ∑wi=1 と ∑wixi=m より、括弧の中は m−m=0 となり、一次の項が消えます。したがって、次の不等式が得られます。
i=1∑nwif(xi)≥f(i=1∑nwixi) これで証明は完了です。さらに、f が厳密に下に凸なら、x=m のとき接線不等式は等号なしの不等式になります。そのため、正の重みをもつ xi の中に m と異なるものが1つでもあれば、全体も等号なしの不等式になります。これが、先に述べた等号条件の理由です。
解説PDFの案内
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イェンゼンの不等式の利用例
例1:相加平均と相乗平均の大小関係

正の数 x1,…,xn を考えます。lnx は厳密に上に凸なので、重み n1 でイェンゼンの不等式を使うと、次が成り立ちます。
n1i=1∑nlnxi≤ln(nx1+⋯+xn) 左辺は lnnx1x2⋯xn と等しくなります。ex は増加関数なので、両辺の指数をとっても大小関係は変わりません。
nx1x2⋯xn≤nx1+x2+⋯+xn 等号が成り立つのは、すべての xi が等しいときに限ります。0を含む非負の数の場合も、左辺が0になることを別に扱えば成り立ちます。ただし、ln に0は代入できないので、上の議論は正の数に限ったものです。
例2:ヤングの不等式
a,b>0、p,q>1、p1+q1=1 とします。重み p1,q1 はどちらも正で、和は1です。正の数 ap,bq に対して ln の凹性を使うと、次が成り立ちます。
p1lnap+q1lnbq≤ln(pap+qbq) 左辺は lna+lnb=ln(ab) です。両辺の指数をとると、次の不等式が得られます。
ab≤pap+qbq これがヤングの不等式で、等号は ap=bq のときに成り立ちます。p=q=2 とすると ab≤2a2+b2 となり、通常の2変数の相加相乗平均に戻ります。指数の条件は p,q>1 であることに注意してください。
掲載元:ヤングの不等式に関する過去の投稿(図の指数等は本記事で訂正)
例3:円に内接する三角形の面積の最大値
半径 R の円に内接する三角形の内角を A,B,C とします。このとき A,B,C>0、A+B+C=π です。正弦定理より、辺の長さは 2RsinA などと表せます。したがって、面積 S は次のようになります。
S=21(2RsinB)(2RsinC)sinA =2R2sinAsinBsinC sinA,sinB,sinC はすべて正です。まず相加相乗平均を使います。
sinAsinBsinC≤(3sinA+sinB+sinC)3 次に、0<x<π で厳密に上に凸な sinx にイェンゼンの不等式を使います。
3sinA+sinB+sinC≤sin3A+B+C =sin3π=23 以上より sinAsinBsinC≤833 となり、S≤433R2 が得られます。2つの不等式はどちらも A=B=C=3π のときに等号が成り立ちます。したがって、面積が最大になるのは正三角形のときです。

例4:早稲田大学政治経済学部1995年として紹介した問題
既存の投稿で、早稲田大学政治経済学部1995年の問題として紹介した例です。なお、本記事では問題原本との照合は行っていません。a,b>0, a+b=1 のとき、次の不等式を示します。
(a+a1)2+(b+b1)2≥225 x2 が下に凸であることから、X2+Y2≥2(X+Y)2 が成り立ちます。ここで X=a+a1, Y=b+b1 とおくと、a+b=1 より次のようになります。
(左辺)≥21(1+a1+b1)2 さらに a1+b1=aba+b=ab1 です。相加相乗平均より ab≤(2a+b)2=41 なので、ab1≥4 がわかります。したがって、右辺は 21(1+4)2=225 以上です。等号が成り立つのは a=b=21 のときです。

例5:京都大学1999年として紹介した問題
既存の図で扱っているのは、三角形の内角 A,B,C について sinAsinBsinC の最大値を求める問題です。これは例3とまったく同じ計算で解けます。最大値は 833 で、正三角形のときにとります。

例6:東京工業大学1999年の一部改題として紹介した問題
a,b>0, p>0 とします。A=(a+b)p、B=2p−1(ap+bp) の大小を比べます。f(x)=xp (x>0) とおくと、f′′(x)=p(p−1)xp−2 です。
- p>1 のとき:f′′>0 なので厳密に下に凸です。下の式の両辺に 2p を掛けると、A≤B が得られます。
- 0<p<1 のとき:f′′<0 なので厳密に上に凸です。不等号の向きが逆になり、A≥B となります。
- p=1 のとき:A=a+b=B となり、常に等しくなります。
(2a+b)p≤2ap+bp(p>1) p=1 のとき、等号が成り立つのは a=b のときに限ります。
掲載元:べき関数の大小比較に関する過去の投稿(図の最終不等号は本記事で訂正)
例7:不等式の証明練習

図の問題の条件は、s,t,α,β>0、s+t=1、n は正の整数です。このもとで、次の不等式を示します。
(sα+tβ)n≤sαn+tβn f(x)=xn (x>0) とおくと、f′′(x)=n(n−1)xn−2≥0 なので下に凸です。重み s,t でイェンゼンの不等式を使えば、ただちに示せます。
n=1 のときは、両辺がともに sα+tβ となり、常に等号が成り立ちます。n≥2 のときは f′′>0 で厳密に下に凸であり、重み s,t も正です。したがって、等号が成り立つのは α=β のときに限ります。
入試の答案で使うときの注意
答案では「イェンゼンの不等式より」と定理名を書くだけで済ませず、次の点を明記しましょう。
- どの関数を、どの区間で、下に凸・上に凸のどちらとして使うか(二階微分の計算など)
- 重みが0以上で、和が1であること
- 代入する値がすべてその区間に含まれていること
- 等号条件を述べる場合は、厳密な凸性と正の重みを確認していること
イェンゼンの不等式を証明なしで使ってよいかどうかは、大学や問題によって扱いが異なる可能性があります。微分可能な関数なら、接線不等式からの導出も説明できるようにしておきましょう。
参考資料
※過去投稿の図版にあったヤングの指数と大小比較の誤記は、本記事では修正した式で解説しています。